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東谷暁による「事件」に対する解釈論

早起きは三文の得というのは本当か?;宵っ張りはよくないという考えを再検討する

「早起きは三文の得」とか「早起き鳥は多く虫をとる」とかいって、早起きには道徳的な意味以上に実利的な得があるとされてきた。だからこそ、アメリカのビジネスマンなどは競って早朝から仕事をするわけだが、本当に早起きは得なのか? サラリーマンの場合には、多くの会社で勤務時間を決めているので、否応なく早起きを強制されるが、もし、フリーの人なら、あるいは会社がフレックスタイムなら、根本的に考え直すべきでないだろうか。


経済誌ジ・エコノミスト6月6日付に掲載された「早起き鳥がいいか、宵っ張りフクロウがいいか」は、意外に読者の関心を引いて、人気記事ナンバーワンとなった。ただし、このエッセイは同誌の「バートルビィ」という、ユーモラスでしばしばシニックになる名物コラム蘭に載ったことを考えれば、他の記事同様に多くのデータを基にした深淵な指摘があるとは限らないが、なぜ、いまの読者に受けたかを考えてみるのも悪くないかもしれない。

ともかく、この記事はまず早起きは得になるという主張の例から始めている。アップル社のボスであるティム・クック氏は、毎朝4時から5時のあいだに起きて、元気に仕事を開始している。また、ディズニー社のボスであるボブ・イーガ-もまだ同じように早起きだ。ある調査によればアメリカにおける大会社のCEOの3分の2は、6時前にはちゃんと起きているというのである。


では、早起きをすると元気に仕事ができるという、何か医学的あるいは生物的根拠はあるのだろうか。同コラムはビジネス・アドバイザーのクリス・クローン氏の説を紹介している。彼によれば、朝4時に起きて体を動かせば、脳内物質であるドーパミンが分泌するので、活力がみなぎり、仕事をする意欲が生まれると言う。そこでクローン氏は、ドーパミンがたくさん分泌する方法を、世の中の意欲あるビジネスマンたちに伝授しているという。

また、オレゴン州立大学のジェシカ・ディーチ氏とその共同研究者が2022年に発表した研究によれば、朝早く起きることのできない夜型の人間は、「なまけもの」「でたらめ」「こどもっぽい」と周囲に認識されている。香港の中文大学で研究しているラップ・アーツェ氏によるならば、夜型の人間はなんと、たいがいはデブだというのである。ほんとなのかねえ、と思う人もいるだろう。


しかし、捨てる神あらば拾う神もいる。夜型の人にも次のような優位性が認められているとコラム氏は書いている。まず、早く出社してしまうと、仕事好きの上司につかまって、仕事を多く押し付けられるかもしれない。また、ある研究によれば、フクロウ型の人間は酒量が多く、薬物摂取量も多いが、どういうわけかセックスに強いといわれる。夜徘徊しているので相手をしてくれる女性に出会う確率がずっと高いという特典もある……こうしてみると、やっぱり夜型は不道徳の匂いがしているのは否定できないと思えてきてしまう。

そもそも、このコラムを書いている人は、どうやらフクロウ・タイプの夜型人間であり、しかも朝型に変えようとして失敗した経緯があったらしい。これでは朝型に対して偏見をもっている確率が高く、また、夜型にもいい面があると弁護したがるのは分かるが、どう考えても、そこに積極性はなく、利点の多くは不道徳的とされやすい事例に偏っている。「私は目を覚まし続けるために必要なカフェインの量に不安をおぼえ、早起きの努力を放棄した」のだそうだ。


では、この投稿を書いている「わたし」はどうなのだろうか。学生のころ出版社に入ろうと思ったのは、他の企業のほとんどは早く起きなければ務まらないのに対して、このジャンルの出勤時間は「でたらめ」に見えた。そこで10時出社の小さな編集部にもぐりこんだが、その後もなるだけ自由に出退できる仕事場を探した。それはますます「なまけもの」になる結果を生んだ。それでも人生にはいろいろの価値観があると自分を慰めていたのは、やはり「こどもっぽい」性格が出たものというしかない。

フリーになってライター稼業を始めたが、ますますフクロウ型へと傾斜して、しかも、食べながらの酒飲みにも拍車がかかったせいでデブになり、学生時代には65キロだったのに、一時的には85キロに達した。健康に危険が及んだので、いまは8時半には起きて、酒はカミさんと旅行にでかけたときに限っているので、65キロに戻った。なんと、このコラムは正しいことだろうと感嘆するしかない。したがって、このコラムの最後の部分もほとんど同意できる。


「おそらくは、体内時計を気にするのをやめるのが、なんといっても一番のアドバイスだろう。ほとんどの人は、早起き鳥でもなければ夜更かしフクロウでもなく、まあ、中間といったところ。私をふくめ午後まで働くと眠くなる人はたくさんいる。ほとんどの会社は仕事時間が9時から5時であり、また、たいがいの会社に仮眠室があるのはそのためだろう」

比較的大きな出版社で仕事をしていたころ、しばしば仮眠室をつかったが、それは必ずしも夜ではなく、昼にもつかったことを思い出す。ある日、仮眠室に入ろうとすると、「仮眠室は廃止しました」とあったので、ドーパミンとはまったく違う作用をともなう、アドレナリンがドバーっと分泌して、腕の皮膚はあわ立ち体が震えた。