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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ゼレンスキー大統領とザルジニー総司令官の関係が最悪に;反転攻勢の失敗は誰の責任になるのか

ウクライナのゼレンスキー大統領とザルジニー総司令官の関係が悪化している。東部での戦いでロシアにおされ気味になっているなかで、政治のトップと軍事のトップの軋轢が顕在化しているのは、かなりの危機だとみていい。ザルジニーの更迭もささやかれているが、それが彼に対するゼレンスキーの嫉妬のせいだとの説もあるほどで、こじれ方もかなり陰湿なところがある。まずはこの反目の原因をいくつか見てみよう。


意外に思ったといえば失礼になるかもしれないが、日本経済新聞12月27日付の「ウクライナ、大統領と軍トップの亀裂あらわ」がかなり詳しく、かつ興味深くこのウクライナ内部の対立をレポートしている。「6月に始めた反攻が失敗に終わったことへの責任問題や、国民的な人気があるサルジニー氏への大統領側の警戒感が背景にある」というわけだ。

対立があらわになったきっかけは、少し前の英経済誌ジ・エコノミストで、ザルジニーが反転攻勢の事実上の失敗を「膠着状態」という言葉で言い切ったことだった。しかし、それ以前に西側諸国とくにアメリカの要求を飲むかたちで、軍の幹部をつぎつぎと更迭したゼレンスキーへの反発があったと思われる。もちろん、根本には反転攻勢が失敗した責任は誰にあるのかという問題が横たわっているのだが、総司令官が大統領の発言に次々と異論を唱え、それが世界のメディアで報道されるというのは異様な事態というしかない。

日本経済新聞より


いちばん新しい対立は、ゼレンスキーが19日に「45万から50万人の追加増員を要請した」と述べたのに対し、ザルジニーが「そんな話は聞いていない」と述べ、さらに「軍事機密にかかわることで、数字をいうのがおかしい」との意味の発言をした。「ゼレンスキー氏は19日の会見でザルジニー氏の更迭の観測を否定し『実務的な関係を保っている』といっていた」と日経は述べている。

さらに、この記事では「政治の世界でいう『実務的関係』とは、往々にして業務上の最低限の意思疎通しかできない間柄を意味する」と解説しているところが興味深い。「『彼には戦場で結果を出す責任がある』とも述べ、将来的な解任の可能性を否定しなかった」とも付け加えている。「6月に始めた領土奪回に向けた反攻作戦は失敗に終わった。会見を受け、ゼレンスキー氏が国民に不人気な大規模動員や、反攻失敗の責任をザルジニー氏ら軍司令官に押しつけようとしているとの見方が広がっていた」。

ロイター電子版より


この記事では、両者に生まれた「ライバル意識」についても多く触れていて、ザルジニー氏の人気が高まっていることが、この不況和音の背景にあると断じているところも興味深い。キーウ国際社会学研究所が11月下旬から12月上旬に行った世論調査では、サルジニー氏を「信頼する」と回答した人が88%で、ゼレンスキーの68%を上回ったという。

もちろん、これは大統領として誰がふさわしいかといった調査ではないから、ゼレンスキーの地位が危ういわけではないが、いっぽうサルジニーの更迭につながる可能性は高いと思われる。ザルジニーも反転攻勢の失敗の責任を不当に取らされることを予想し、意識的にゼレンスキー批判を行っているのではないだろうか。