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東谷暁による「事件」に対する解釈論

イスラエル・ハマス戦争の「二国家解決」は可能なのか;まずはバイデンの覚悟だが、それが一番危うい

イスラエルハマスの停戦を目指して、さまざまな試みが行われている。もちろん、それは一時的な休戦に過ぎないが、いずれにしてもアメリカの役割は大きい。これまでの水面下での交渉にもかかわらず、双方が仲介者を信用できないのは、背後にいるアメリカの姿勢がいまひとつ安定していないからだ。そしてまた、アメリカが本当に「二国家解決」を推進する気があるのかが、依然として不明瞭なのである。


米外交誌フォーリンアフェアーズ電子版12月22日付は「イスラエルパレスチナの交渉に当たっては、アメリカが安易な姿勢を捨てねばならない」との論文を掲載している。カーネギー国際平和財団のアーロン・ミラーとプリンストン大学のダニエル・キュルツナーの共著だが、2人ともアメリカ政府で実際に外交に携わった経験がある。彼らが提示するのは「二国家解決」と言われるものだが、これまで言われているものと、どこに違いがあるのだろうか。

前提となっているイスラエスハマス戦争の個々の分析は割愛して、ただちに彼らの提案から始めよう。これまでもアメリカはイスラエルという国家と、パレスチナという将来国家となる地域との交渉を、二国家間の交渉とみなす「二国家解決」を主張してきた。しかし、イスラエルには膨大な軍事および財政的な支援を行ってきたのに、パレスチナ側には彼らの土地がイスラエルの「入植」によって蚕食されても、イスラエルをはっきりと批判することはなかった。そのためアメリカは本気で二国家解決を推進するとは信頼されてこなかった。


ミラーとキュルツナーはあくまでも本気で「二国家解決」を今回の戦争の解決策として提示しようとしている。アメリカは多くの困難な問題の解決を同時に断固として進める。ガザ地区イスラエル軍が撤退する日を前提として再建するメカニズムを作り上げ、嫌がるアラブ諸国を交渉の場に引き入れて、ガザ地区に法と秩序と政府を打ち立てる。そのいっぽうでハマスは海岸地域に封じ込め、ヨルダン川西岸を統治しているPAをパレスチナ国家の代表とするため再建をはかる。これらを一気にやれというのだ。

さまざまな困難について述べながら、2人はアメリカがしなくてはならないことを5つ挙げている。まず、バイデン大統領はイスラエルに圧力を掛けて、地上作戦および空爆をやめさせる。次に、ガザ地域への人道支援を増加させるために強い圧力をかける。さらに、イスラエルガザ地区を(入植などによって)縮小してしまうのを阻止する。そして、イスラエル北部でヒズボラが活動するのを抑える。それに加えて、アメリカが「二国家解決」について本気であることを関係諸国に分からせる、というものである。


そしてもうひとつ、重要なのがが、こうした政策がバイデンの大統領再選にどう影響するかを考察することだ。論者たちは自分たちがアメリカ政府で実務を担当した経験から、何かプランを提示するときは強度において3レベルの選択肢を考えると述べている。ひとつ目が、政策立案者ですらも受け入れるのに困難を覚えるほどの大胆な策。ふたつ目が、これまでの状態を維持するような政策立案者たちが困難はないと感じるもの。そして、みっつ目が、「ゴルディロックス」なプラン、つまり、ほどほどの配慮がしてあって、多少の困難はあっても切り抜けることは可能と思われるものである。

では、ここで2人が提示しているのは、どのレベルなのか。もっとも受け入れさせるのに有効なのは、3つ目ということになるが、今回の「二国家解決」はもはやそのレベルでは目的を達成することは難しいと見ている。つまり、かなり大胆なものでないと遂行したときき結果を得ることはできないのである。「もうゴルディロックスではイスラエルハマス戦争のあとの状況に対応できない。バイデンは発言や行動において、断固とした姿勢を採用しなければならない」。

ロイターより


残念ながらミラーとキュルツナーが改めて提示している「二国家解決」は、作戦そのものにこれといった新しいものはないといってよいが、バイデンがそれを断固として推進すべきだということを繰り返し強調している点が新しいといえば新しい。そして、大統領選についても「バイデンが第2期目の大統領になるべきだとするならば、イスラエルパレスチナ問題に対して、2024年に実行に移し、その後もさらに持続性のある政策こそ、より強力に再選を約束することになるだろう」。

少しだけコメントしておくと、これはあくまで期待あるいは希望というべきものと考えたほうがいいような提言である。いうまでもなくパレスチナ問題の解決を少しでも望む者は皆、似たことを考えたことがあるだろう。しかし、いちばん大きい問題は、他でもないバイデンという大統領が、これまで蓄積された双方の憎悪や失望を超えさせるほどパワーと魅力がある政治家なのかということだろう。しかし、少しでも停戦に近づくには、いまや完璧で永続的な解決などは望めない状況にある。3年、いや1年でも、死者が比較的少ない状況が生まれたら、それで成功だと考えるような、別の意味での大胆さが必要なのだ。バイデンにはそれもまた欠落しているように思える。