HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国のGDPが急進したそうだ;それで、いったい何がよくなるのかね

7月16日、中国当局は第2四半期のGDP伸び率が、前年同期比で3.2%増と発表した。日本のある通信社が速報で手放しの肯定的報道をしたが、もちろん、世界中を見渡しても、そのまま肯定的に受け止めたマスコミはほとんどなかった。新型コロナに関心のある人は、やっぱり強圧的なロックダウンがいちばん効くのではないか、と思ったかもしれないが、話はそんなに単純なことではない。

f:id:HatsugenToday:20200717224155p:plain

 いま改めて確認しておくべきなのは、どうしてこんなに好ましいデータがあがってきたのに、それを世界は素直に喜べないかということである。分かりやすいのはアメリカ政府の立場で、自国がおそらくマイナス10%になりそうなのに、経済戦争まっさかりの敵国が大逆転の3.2%というのは、うれしいはずがない。ウォールストリート・ジャーナル紙などは「アメリカは第2位に甘んじることになるのか」などと書いている。

 しかし、他の先進国にしてみても、中国がこのまま回復基調に入るなどと思う経済当局などありはしない。なんといっても、中国がこの数十年の間に世界で第2位の経済大国にのしあがったのは、アメリカを中心とするグローバリズムの恩恵を、アメリカ以上に多く享受したからである。アメリカという巨大市場を前提に、中国は輸出をして基盤を作り上げ、さらには巨大な輸出先にもなることで、いまの地位を確固としていった。

f:id:HatsugenToday:20200717224253p:plain

bloomberg電子版より


その中国にとって本格的な経済回復を現実のものにするには、輸出先と輸入先の経済が回復してくれることだが、巨大なアメリカとは経済戦争が継続しているし、欧州も日本もアジアもコロナ・パンデミックで急激に萎縮したままだ。こんな状態ではコロナ禍から脱出したとしても、貿易が拡大する見通しなどたつわけがない。

 また、中国にはコロナとは関係なく、もう宿痾となった病がある。巨大な不良債権を抱えたまま、その問題解決がありそうにないのだ。中国は独裁制だから政府がすべて買い上げてしまえば問題ないじゃないかと思う人もいるかもしれないが、もう同じようなことを繰り返しての不良債権の雪だるま状態だ。しかも、この不良債権は不動産への過剰投資によって生まれたものが多く、不動産のバブル崩壊によってさらに膨れて、中国人のみならず世界の人々の恐怖の的になっている。

フィナンシャルタイムズ7月17日号は、次のように指摘している。「武漢で新型コロナ感染者が確認されるようになる前から、中国ではすでに不動産開発で行き過ぎた投資が見られるなど、著しい過剰投資に陥っていた。さらに不良債権は増大し、非効率的な国有企業がますます強大になる一方で、消費は慢性的に弱いままだった」。同紙は今回の中国政府発表のデータを掘り下げて、今年上半期に国有企業の投資が2.1%増えているのに対し、民間企業の投資が7.3%も減っていると指摘している。実は、今回の「回復」というのも、こんな辻褄合わせなのである。

f:id:HatsugenToday:20200717224355p:plain

bloomberg電子版より


しかも、中国が本当にコロナ禍を完璧に閉じ込めたのかといえば、そうでもない証拠がでつつある。6月には北京市の食品卸売場で集団感染が発生し、300人以上が感染した。また、北京近郊の町を完全にロックダウンしたとの報道もなされている。もし、中国が世界との貿易の本格的な再開を断行すれば、こんどは新型コロナウイルスが逆流することになる。パンデミックの中にあっては、自国だけが抜け出ることは至難の業なのである。

 こんな状態だから、たとえ中国政府がGDP伸び率3.2%だと誇らしげに発表しても、同国内の株式市場は高騰するどころか、逆に下落した。この日の上海市場は全面安となり、上海総合指数の終値は3210.1と、前日比で4.5%も暴落してしまった。この下落は証券担保融資プラットホーム運営会社が違法な「場外配資」を行ったとして、参加会社258社を公表したことだったというが(東洋経済オンライン7月17日)、この腐敗ぶりも末期の兆候と考えるべきではないか。

 ざっとみただけで、「中国の反転」と言われるものが世界経済回復の先駆けというよりは、さらなる深い波間への転落と見るべきという根拠は多いのだ。ブルームバーグ電子版7月16日では、JPモルガン・チェースエコノミストが「中国の回復は世界の他の国々よりも力強いことは明らか」と言いながら、「下半期はこの回復のモメンタムはもっと温和なものになる」と語ったと報じている。

 結局、中国の異常にも見える急激な回復に、世界が一瞬引き付けられるのも、それだけ他の国々の経済とコロナ禍が悪すぎるからで、アメリカやブラジルの惨状だけでなく、せっかく回復しかけていた日本も、生活と経済を返せという直情的な声が、秋を待たずして第2波を呼び込みつつある。

経済誌『ジ・エコノミスト』7月18日号は、「先進諸国は、基本的に中国を変えることもできなければ無視することもできない」と述べているが、まるで新型ウイルスではないか、などと思わないほうがいい。それはコロナ禍以前もそうであったし、それ以後も同じことなのである。

 

●こちらもご覧ください

komodon-z.net

こちらでは、アメリカの株価バブルと比較しています。