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東谷暁による「事件」に対する解釈論

FRBが緩和政策を転換した!;まずは証券買上げを縮小、次は利上げか

アメリカ連邦準備理事会(FRB)は、11月3日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、量的緩和縮小(テーパリング)を今月から開始すると決定した。当面は財務省証券と住宅ローン担保証券MBS)の購入月額を減らしていくが、「いまは利上げのときではない」とパウエル議長は強調した。この証券買い上げの減額は来年6月に終了するとみられている。

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すでに11月4日の朝から、日本でもテレビやネット上で報じられているが、やはり来るべきものが来たという感じは否めない。大きな構図でみれば、コロナ禍のなかで量的緩和金利引き下げで対応してきたが、「一時的」とされてきたインフレが意外に続いているので、まずは証券の買い上げを減らしてみるということだろう。

まず、ウォールストリート紙11月3日付け。「FRBは11月3日、証券の購入額を11月に毎月150億ドル、12月にはさらに150億ドル減らす方針を示した。毎月同じ程度のペースで削減を続けるのが『適切である可能性が高い』としながらも、『経済の見通しの変化によって正当化される場合』、購入ペースを調節する用意があると述べている」

さらに、フィナンシャル・タイムズ紙11月3日付から、パウエル議長の発言をみてみよう。「いまは量的緩和縮小の時であると私たち(FOMC)は考えている。というのは、経済は本質的に私たちが考えているゴールに向けて進んでおり、私たちはいまはまだ利上げの時期ではないと思うからだ」。

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FT.comより


いまのアメリカの状況を簡単に振り返ってみよう。現在、インフレ率は5%台に達しており、コアCPI(生鮮食料品やエネルギーを除外したインフレ率)も3.6%となっている。FRBインフレ目標を2.0%に設定してきており、最近はこの2.0%を「一定期間の平均」と捉えるようになったが、やはりFRBの目標からは乖離している。それをFRBは「一時的なもの」としてきたが、そうでない可能性も考慮せざるをえなくなった。

次もフィナンシャル・タイムズ紙。「FRBは今回、物価を上昇させる圧力となる要素が『一時的であると予想される』と表現した。これまでの表現ではインフレはおおむね『一時的な要素』によって生じていると述べていた」と指摘している。この点は、今朝の日本経済新聞の速報では「FOMCは声明でインフレの認識を従来の『一時的な要因を広く反映』から『一時的と見込まれる要因を広く反映』に微修正した」と報じて、ほぼ同じスタンスで報じている。

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WSJ.comより


とはいえ、世界の動向を見れば量的緩和縮小だけでなく利上げすらも現実のものとなっている。ウォールストリート11月3日付によれば、「欧州では利回りがマイナスである債券が消滅しつつある」と報じ、さらには利上げを予定している国が出てきたことを重視している。

「フランス、アイルランド、オランダ、スイスの国債利回りがこのところ、プラスに浮上するか、ゼロ近傍で推移している。ドイツの連邦債10年ものの利回りはいまもマイナスだが、今週、マイナス0.07%まで浮上し、2019年4月以来、もっともプラスに近づいている」

さらに、マイナス金利の撤廃についても、同紙によれば「ノルウェーポーランドなど他のヨーロッパ諸国はすでに利上げに踏み切った。同様にインフレが加速しているアメリカ、英国、カナダの中央銀行も、2022年に利上げする可能性が高い。イングランド銀行は早ければ11月4日に金融政策会合で利上げに踏み切る可能性がある」。

FBRのパウエル議長たちは、インフレターゲットを2.0%に設定して、それから外れるのはあくまでコロナ禍によって生まれた一時的なものであり、それらの要素が後退すれば、目標値の2.0%に回帰してくるはずだという前提で議論している。それはコロナという事態を考えれば無理もないのだが、そのいっぽうで、コロナ禍を乗り切るなかで行った政策や、付随して生まれた事態が、インフレを長引かせてしまうという可能性についても考えざるを得なくなっている。

この点について、少し前のウォールストリートに、FRBエコノミストのひとりが異論を呈しているという記事が掲載されている。「FRBインフレ予想に死角、スタッフの批判が波紋」(同紙日本語版 10月14日付)によれば、スタッフエコノミストのジェレミー・ラッドが「エコノミストは事実というよりも、自らの経済モデルや理論に適合するという理由から仮説を立てている」と主張する論文をFRBから発表したというのだ。

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これは別にFRBエコノミストに限ったことではなく、マスコミに登場する経済評論家も同じようなもので、「自分の理論によって政策を展開すればこの国の経済は復活する」と述べている論者が大勢いるというのは、どこかの国ではもう延々と続いている光景だろう。ただし、アメリカの優秀なエコノミストの集まるFRBでもそうなのだという論文が、ほかでもないFRBから発表されたことが興味深い。

いずれにせよ、日本はいまもインフレ率がマイナスであり、当面は「新しい資本主義」を目指すにしても、また、別の新奇な政策提言をするにしても、この点を「理論」だけでなく「データ」や「事実」によって説明する必要がある。ご都合主義的で見かけだけが壮大な理論は、もういいかげんにやめにすべきだろう。

 

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