HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

米国の物価上昇は他人事ではない;日本でも企業物価は40年ぶりの急上昇だ

アメリカではインフレがじわじわ続き、ついに今年10月は31年ぶりの消費者物価6.2%上昇を記録した。コアCPIも4.6%であることから、いよいよインフレ時代に移行したとの見方も出てきた。日本でも企業物価指数が40ぶりの前年比8・0%上昇との報道があって「デフレ基調」の我が国でもインフレへの警戒が生まれている。

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インフレの足は速い?


この物価上昇はエネルギー価格の上昇によるもので、アメリカの場合は一部のたとえば中古車市場の過熱などは、一時的なものだとの指摘もあるものの、もう少し詳しく見ておくべきだろう。フィナンシャル・タイムズ紙11月11日付は「米国の消費者は30年ぶりの価格上昇に直面」との記事を掲載し、今回の数字への冷徹な判断をうながしている。それがこれからを予想するのに必要だというわけだ。

まず、先ほどの6.2%だが、これは水曜日(同月10日)に米労働統計局から発表されたもので前年度同時期比較で、同年9月の前年比5.4%と比べても高く、1990年以来の急上昇であることは確かだ。しかし、これを前月比でみると今回の数値は0.9%であり8月から9月にかけての0.4%と比べれば大きいが、問題はこれがこれからも続くかどうかなのである。

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フィナンシャル・タイムズ紙より


さて、その最大の原因であるエネルギー価格だが、同紙はこの数値の記述ではちょっとしたヒネリをいれている。「エネルギー指標は9月から4.8%上昇したが、これはガソリン価格が6.1%上昇したからだ。これを年率で述べると、前者は30%で後者は50%もの上昇ということになる」。前月比と年率の違いに注意すると同時に、エネルギー分野の上昇率が、いかに大きいかを示唆している。

加えて、コアCPIを算出するさいに除去されるエネルギーと(生鮮)食料品との上昇率についても個別の注意を促す。たとえば、食品(全体)とエネルギーの上昇率は10月前月比で0.6%で9月の前月比0.2%から上昇していて、これを年率であらわすと4.6%4.0%ということになる。やはり、かなりの上昇がみられるということだろう。ちなみに、もうひとつの物価上昇の元凶である中古車は前月比2.5%で年率だと26・4%であって、これが一時的でも大きなファクターであることは間違いない。

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ジ・エコミスト誌より

 

今回、いちばんあわてたのは、おそらくバイデン大統領だった。すでに報道されているように、アフガン撤退以降、急速に支持率が下がり、いまや40%台に低下している。こうした消費者(有権者)にとって「わかりやすい」マイナスのインパクトはさらに支持率を下落させる危険がある。すぐに国民にむけて消費者物価上昇は「トップ・プライオリティ(最大の課題)」だと表明している。このくらいの物価上昇を「最大の課題」といった大統領は、最近では珍しいのではないだろうか。

もちろん、英経済誌ジ・エコノミスト電子版11月11日付は「なぜ30年ぶりのインフレはアメリカの回復に不安の種をまくのか」を掲載して、バイデン大統領にかるいジャブを入れている。「エコノミストたちのジョークにこんなのがある。インフレ率の最適レベルというのは、国民が気がつかない程度のものであるときだ。しかし、アメリカではいまのレベルは国民がしっかりと気がついてしまっている」。

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エコノミスト誌より

 

たしかに、6.2%というのは気がつかないではいられないインフレだろう。また、そのためバイデン大統領がコメントするのも当然かもしれない。それは、パウエル議長のFRBも同じで、物価上昇は続くとみなすようになっており、おそらくこのままだと来年には利上げになるだろう。では、それが根本的な解決になるのだろうか。同誌はあっさりと「いまのインフレは、バイデン大統領の手の内の外にある」と言い切っている。

つまり、エネルギーの高騰もサプライ・チェーン寸断による供給不足も、いまのコロナ禍の状況から生まれたもので、懸念を表明したくらいで解決はしないというわけだ。「歴史的にみれば、成長サイクルは中央銀行が緊縮策を始めたときに終わる。したがって、いまの物価上昇圧力は、経済的にはこれから失望を生み出す前兆にならざるをえないのである」。日本についても、単なる石油高やサプライ・チェーン問題と軽く考えず、そろそろインフレについても意識する必要があるかもしれない。