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東谷暁による「事件」に対する解釈論

オミクロン株が急伸する世界;目で見るコロナ禍の現状

オミクロン株が登場して以降、1日あたりの感染者数が、これまでのピークを大幅に超えてしまう国が多くでてきた。この新しい変異株はきわめて感染力が強いというのは、ほぼ間違いないと思われる。しかし、そのいっぽう、オミクロン株が引き起こす症状が本当に軽いのかは、まだよくわかっていない。

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フィナンシャル・タイムズ12月31日付は「世界的なオミクロン株の急伸は20カ国で記録を塗り替えている」との記事を掲載。すさまじい感染拡大の様子をグラフにして示してくれている。まだまだ議論は年を越して続くと思われるが、まず、これらのグラフを見て、2022年を考えてみよう。

まず、20カ国のグラフだが、先進国においても新興国においても、感染数が急増している様子がうかがえる。ここに挙げられたグラフは記録を更新したところだけだが、もちろん、これまでのピークに迫る勢いの国は多く、むしろ、ほとんどといってよい。注目したいのはオーストラリアの場合で、これまで「ゼロ・コロナ」を実現してきたとされていたが、このところ感染が急増して、これまでのピークの5.5倍に達している。また、デンマークなども極端な伸びを見せていることは見逃せない。

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最初にオミクロン株が確認された南アフリカ(ずっと下にグラフをあげてある)は、逆にこのところピークは越えたとの観測が生まれていて、たとえば午前4時までの夜間外出禁止が解除されたという。同国についての解釈はさまざまだが、フィナンシャル紙は2年前からの新型コロナ感染がなんらかの免疫を形成していたので、オミクロン株が感染したさいの症状が軽く見えるのではないかとの説を取り上げている。とはいえ、「ワクチンを打っていない人や感染未経験者も、軽い症状である保証はまるでない。ましてや、既往症のある人が軽くすむなどとはいえたものでない」。

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新興国のグラフ(上図)を見ると、やはり感染数が増えれば死者数も増えていくという関係は成立していることが分かる(赤と緑の線)。オミクロン株の場合には必ずしも比例はしていないが、WHOの主任科学者ソミヤ・スワミナサンは「死者は小さな割合でも、感染数が巨大であれば、それは大きな数字となって出てくる」と警告している。

事実、ここにグラフをあげたアメリカの各州での状況(下図)を見れば、急激な感染拡大はワクチン接種者の割合が高い地域でも拡大しており、しかも感染者の伸びと緊急治療室に入る割合(つまり重症化の割合)とは強い相関関係があることが分かる(赤と緑の線)。ニューヨーク州などでは、州知事が音頭を取って、医療スタッフの増員やベッド数の増加を進めているという。12月30日現在、同州のデータは74207人が新規感染しており、入院した人は7373人にのぼっている。

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WHOの緊急事態対策部長のマイク・ライアンは、ウイルスはたぶんエンデミック(地域に定着した感染症)に進化しつつある段階にあると述べている。「ただし、ウイルスは(変異をしても)完全に消え去るということはまずない」。問題は、その定着のしかただが、それがまだ分かっていないのである。

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南アフリカの感染者数グラフ(7日平均)


ついでといっては何だが、フィナンシャル紙が掲載していないグラフを、2つほど追加していおこう。ひとつは、文章のなかに何度もでてくる南アフリカの感染者数のグラフ(上図)。もうひとつが、これまで何かと注目を受けてきたスウェーデンの感染者数グラフ(下図)。いまもスウェーデンは「集団免疫」を達成して、感染者はいなくなったと思い込んでいる人がいるが、これまでの記録を塗り替えていないものの、他国同様に急伸していることはまちがいない。

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スウェーデンの感染者数グラフ(7日平均)


ジョン・ホプキンス大学のデータによれば、現在、世界で2億8400万人が新型コロナに感染し、5400万人以上が亡くなっている。この数値は過小評価されているとされており、たとえば、これまでも私のブログやサイトで取り上げたように、ジ・エコノミスト誌が「超過死亡」の計算法を使って算出した死亡者は、すでに1500万人を超えている