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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ロシアはウクライナの中立化と武器制限を提案;それが停戦の条件だが、いったい誰が保障するのか

ウクライナとロシアの和平交渉に進展があったとの報道が世界を駆け巡った。ロシア側からの提案として、ウクライナが中立化を宣言して一定のレベルの自国軍に甘んじると約束すれば、ロシア軍は停戦に応じて軍隊をひきあげるというものだ。もちろん、これには肝心の点がいくつか欠けている。

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このニュースをロシア高官の話として報じたのは、フィナンシャルタイムズが早かった。同紙3月16日付の「ウクライナとロシアは和平交渉において中立化プランをさぐる」だが、これには次のようなリードがついていた。「15点からなるこの草案は、安全保障のみかえりとして、キエフ政府にNATO加盟の野望を放棄することを課するものだ」。

ウクライナとロシアは暫定和平プランにおいて大きな進展をみせた。このプランでは、もしキエフ政府が中立化を宣言し武装の制限を受け入れるならば、ロシアは停戦に応じて軍を撤退させるというものだ。この情報は5人の関係者から得られた」

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ft.comより:キエフはミサイル攻撃されているが戦線は膠着状態にある


このように同紙は述べながら、その難点もすぐに指摘している。「とはいえ、ウクライナへの西側の安全保障やモスクワ政府の承諾の性質からして、交渉には大きな障壁が存在する。2014年に(ロシアの一方的なクリミア併合のさい)ロシアと親露勢力が掌握した領土の位置づけが問題となるからだ。1994年に合意されたウクライナの安全保障はクレムリンの隣国に対する攻撃によって失敗に終わっている」。

このニュースが報じられる前にも、ウクライナのゼレンスキー大統領の「ウクライナNATO加盟はできない」と認める国民への発言が注目されていた(たとえば、フィナンシャルタイムズ紙3月15日付)。今回のロシアの侵攻にいたる過程において、大きな要素となったのが、同大統領のNATO加盟への積極的な姿勢だったことを考えると、ウクライナにとってもこの交渉の成り行きは予想されていただろう。

しかし、同紙は、前出の15点のなかに、ウクライナNATOに加盟するのを放棄することだけでなく、アメリカ、英国、トルコといったNATO同盟国の保護をあきらめることと引き換えに、海外からの基地や武器援助を受け入れることも、同じく放棄することが盛り込まれているという。

もちろん、ウクライナ側は現在の条件ですら、にわかにはロシア側の主張を信じられない。たとえ一時的に守られたとしても、その後、いくらでも「嘘」をつく相手であることが念頭にある。そもそも、プーチン大統領がこの案にどこまで乗り気なのかすら不明なのだ。(しかもプーチンは、3月17日に「目的は必ず達成する」と発言している。もう揺さぶりをかけているのだ)「ウクライナの高官は、ロシアのプーチン大統領が完全に和平への意志があるのかを疑問視し、また、ロシア側はたんに軍列を整えるために時間稼ぎをしているだけではないか、との疑いは消えないと述べている」。

そして、いちばん大きいのが、この和平交渉とその決定事項をいったい誰が保障してくれるのかという問題である。すぐに思いつくのはアメリカだが、同国のバイデン大統領はウクライナへの武器供与を宣言したばかりで、すでに8億ドル分の供与が決まっている。「アメリカはウクライナがこれから困難な危機において、戦い自らを守るために武器を供与するつもりである」。