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東谷暁による「事件」に対する解釈論

米国はウクライナをNATOに加盟させたくない?;ブリュッセル・サミットはすでに分裂状態らしい

今年の7月11日から12日、NATOブリュッセル・サミットが開催される。現在、調整が進行中だが、アメリカはドイツなどとともに、ウクライナNATO加盟に消極的で、このままでは他の西側諸国との間に亀裂が生まれるのは必至だという。いったい、アメリカはいまになって、何を考えているのだろうか。

 

アメリカ、ドイツ、そしてハンガリーは、ポーランドバルト三国などが、ウクライナNATOとの関係を深め、将来的には加盟させる方向で調整しているのに反対しているらしい。調整を行なっている4人のNATO高官がそう証言している」(フィナンシャル・タイムズ4月7日付)

2008年4月のブカレスト首脳会談で、当時のブッシュ(息子)大統領がウクライナグルジア(現ジョージア)のNATO加盟を推進することを主張した。このときは、フランスのマクロン大統領とドイツのメルケル首相が、かなり強く懸念を表明したにもかかわらず、ブッシュは強引に推し進めた。それを聞いたロシアのプーチンは怒り狂って、同年8月にはグルジアに侵攻してみせて西側を牽制することになる。


このことを思い出せば、アメリカのいまの行動は、ロシアをさらに刺激して、プーチンの核使用を含む暴走を生じさせないようにする、との意図があることは想像できる(そして、この点については、同紙も触れている)。しかし、たとえNATOの文書にウクライナ加盟が記載されたとしても、それは2008年からの懸案事項であり、将来的な見通しとしてであることは、いまと変わりないのだ。

実は、もうひとつ、ロシアを刺激する要素か今回は加わっている。NATOブリュッセルに、ウクライナのゼレンスキー大統領を招待したことである。しかも、それを聞いたゼレンスキーが、「もし、NATOウクライナとの連携を強いものにして、ウクライナに対し加盟国なみの完全な安全保障をする議論をしてくれるなら参加したい」と返事をしていたのだ。ゼレンスキーとしては形式的では助けにならないと言ったつもりだろうが、NATO側にしてみれば、新たなプーチンへの刺激をあえてすべきかどうかという問題となって跳ね返ってきたわけである。


そして、さらにもうひとつあったと考えるべきだろう。たしかに、アメリカはプーチンの暴発を抑えたいと思っているが、そのいっぽうでこの戦争の目的は、アメリカの兵士を犠牲にしないで、ロシアの軍事力を「もう二度と新しい侵略を企てることだできない程度まで引き下げる」ことであり、それは明確にオースティン国防相が内外に向けて宣言している。そして、そのためには、ウクライナアメリカの指導の下で戦争を継続させねばならないのである。ここには「それは何のために?」という疑問とその答えが欠落しているが、次のようなフィナンシャル紙の記述から読み取ることができるだろう。

アメリカは同盟諸国を鼓舞して、短期的な軍事、財政、そして人道的支援をウクライナに続けたい。それは、ウクライナがロシアの侵攻を防ぎ、反攻するのを助けるためである。それには何より実用的な、たとえば弾薬の供給などがいちばん重要なのだと、アメリカの高官は述べている」。さらに、これもまたアメリカの高官が言っているそうだが、「ウクライナを何時、どのような形で、ウクライナNATOに加盟させるかを議論するには、まず、ウクライナが主権を持った、独立国でなければならないのだ」。

ft,com より:2021年に握手するゼレンスキーとストルテンベルグ


しかし、こうした思考法というのは、ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争でも繰り返されてきたアメリカの理想主義というおぞましい病理であって、実際にはアメリカが支配してその国を「民主主義」に改造するということが前提となっている。この調子では、今回もアメリカ主導の「改造」が、「恐るべき悪の勢力によって邪魔されて、実現することが出来なくなった」という、いつもの結末を迎えるのではないだろうか。