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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ロシアの旗艦モスクワ、最後の数時間の真相;海神が海王に情報を提供して火神が爆発した

ロシアの旗艦モスクワがウクライナのミサイルで、あっけなく沈没した事件については、ウクライナ軍の健闘ぶりを示すひとつとして讃えられている。逆にロシアのだらしなさの一例となって、プーチン体制の脆弱さをあらわすものとされている。しかし、この事態についてはどうも単純には捉えられない背景があると思われる。


すでに「モスクワの沈没は米国のスパイ機が見つけた;代理戦争の様相を深めるウクライナ戦争」で、この出来事にはアメリカのスパイ機が関わっていたことと、このスパイ機が戦術上の情報をウクライナに提供していたとすれば、もうアメリカは十分に参戦しているわけで、ウクライナ戦争は代理戦争に移行していると示唆しておいた。

その後もさまざまなメディアがこの出来事の内実を伝えているが、日本での報道でもアメリカが情報を提供したことは当然視しているものがあり、その場合には敵艦か否かは示さずにその位置だけをウクライナ側に伝えたという、きわめて慎重な書き方をしているものもある。しかし、アメリカの「スパイ機」とはP8ポセイドン(ギリシャ神話の海神、正確には哨戒機)であって、2時間半以上もの偵察でそれが分からなかったということは、ちょっと想像しにくい。


英国経済誌ジ・エコノミスト4月22日号なども、短いが「いかにしてウクライナは巨大なロシア艦モスクワを撃破したのか」を掲載して、かなり興味深い事実も加えている。モスクワは全長186メートルもあって、それはサッカー場の2倍もあるとかの情報も興味深いが、ロシアが言っているように「事故」ではないにしても、さまざまな要素が加わってこの事態になったことを述べている。

まず、ロシア側のモスクワだが、普通なら戦時には巡洋艦が敵地に接近する場合、数隻が互いに協力しあって慎重に行動する。ところが、どういうわけか今回モスクワは単独とはいわないまでも、こうした協力態勢をとらないままにオデーサの近く、60海里まで航行してしまった。しかも、ミサイルP1000ヴァルカン(ローマ神話の火神)を積んでいたが、そのうちの何本かは弾頭がむき出し(!)になっていたと思われるという。こんなことは、ウクライナをよほど甘く見ていなければありえなかった。


さて、いっぽうウクライナ側のネプチューンローマ神話の海王あるいは海神)と呼ばれるミサイルだが、もともとはロシア製のKh-35をもとに、さまざまな改良を加えたものである。海上では低空飛行を続けて敵のレーダーを潜り抜けることができるので、探索されにくい優れものらしい。ただし、スピードが遅く音速以下なので、敵に発見されたときには、損害拡大回避の余地を残してしまうという欠点もあるのだという。

ちなみに、ネプチューンに備えられている敵を探すレーダーは、もともと最初から機能しているのではなく、ドローンなどで発見された目標に向けて発射されて、その近くまで飛行している間は切られている。フランス海軍の元パイロットの証言によると、ミサイルのレーダーは全飛行が5分だとすれば、最後の2分から3分になってスイッチが入って、目標を捉えて向かっていくのだという。だから、発射の直前までに攻撃目標の位置情報がぜったいに必要なのである。

同誌は匿名希望のウクライナ軍大佐にインタビューしているが、この大佐によれば、ネプチューンは目標の位置を与えられなければ攻撃できないので、トルコ製のドローンTB2によって索敵を行って位置を割り出し、それからネプチューンの発射となったという。これもそのまま信じることが難しいのは、前出「モスクワの沈没は米国のスパイ機が見つけた」で示唆したように、最初にモスクワの位置をウクライナ側に最初に伝えたのはP8ポセイドンである疑いは濃厚であり、ドローンを使ったのはその確認のためとするのが自然である。

けっきょくのところ、186メートルもある旗艦モスクワは敵を甘く見てオデーサに他の艦との協力態勢なしで接近し、アメリカの哨戒機P8ポセイドンに見つけられ、その情報はウクライナ義勇軍を通じて(アリバイをつくり)ウクライナ正規軍に伝えられた。ウクライナ正規軍はトルコ製のドローンを飛ばしてモスクワの位置を確認し、ミサイルを2発発射したところ少なくとも1発が命中し、それだけなら沈没を食い止めることができたのに、対応が遅れたということらしい。そのうち、むき出しのミサイル弾頭に爆発時の破片が飛び火して、大爆発を起こして沈没したというのが真相と思われる。


ウクライナ軍としては、アメリカの哨戒機から情報を得たという点を除けば、名誉なことなので大々的に発表して、ちゃっかりとアメリカ政府もそれを確認したと発表する。いっぽう、不名誉のだらけのロシアは、今後のこともあってアメリカの哨戒機に発見されたことは伏せておきたいので、たとえみえみえでも、事故で沈没と偽って発表したのだろう。ロシアはすぐに黒海の態勢を回復しようと、別の巡洋艦黒海に入れようと試みるが、トルコがボスポラス海峡ダーダネルス海峡を封鎖しているので、それができないという情けないことになっているらしい。

ここで確認しておくべきことは、アメリカが哨戒機で得た情報によってウクライナの作戦が展開したとすれば、もう十分にアメリカは戦争にかかわっている。ウクライナ戦争はウクライナの背後にアメリカとNATOが控えている、代理戦争になっているということである。今後、ロシアがウクライナを攻めあぐねて、さらに中国やインドに支援を頼めば、ロシアの背後にも2つの大国が控えている代理戦争の様相を深めることになる。いや、いまでも十分に世界は、冷戦期の構図を復活させており、ウクライナで代理戦争を展開しているわけだ。

ちなみに、世界の武器市場では、ウクライナネプチューンの評価が急上昇して、おそらく売れ行きもよくなるだろうとのことである。

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