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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ウクライナのロシア軍4機撃墜で「本当の戦争」に突入!;次の攻撃はザボリージャかクリミアか

ウクライナとロシアとの間で「本当の戦争」が始まった。ロシア国内でウクライナ勢力と思われる部隊の攻撃により、4機のロシア軍機が撃墜された。これまでウクライナのゼレンスキー大統領は「ウクライナ領土内での防衛」を主張していたが、かなりの確率でこれはウクライナ軍あるいはその友軍による「ロシア領土内での攻撃」である。本当の戦争において「専守防衛」は最も愚劣で不利な戦いだが、ウクライナはそれを「本当」に放棄したようだ。


ちょうど週末にあたっていたので、欧米のジャーナリズムはまだ本格的な報道合戦に入っていないが(ロイターは日本時間の朝に報じた:後出)、日本の共同および時事が「ロシア経済紙コメルサント(電子版)」の報道として、ウクライナと国境を接するロシアのブリャンスク州で5月13日、ロシア軍のスホイ34戦闘爆撃機、スホイ35戦闘機、ミル8ヘリコプター2機の計4機が墜落されたと報じている。これはかなりの蓋然性で「戦闘行為」によるものだと思われる。

すでにこのブログでも取り上げてきたが、これまでウクライナ軍が劣勢にあった東部のバフムトで、急激にウクライナ軍が反攻に転じてロシア軍の「脇腹」を突き、激しい攻撃を受けたロシアの部隊がほうほうの体で撤退した(ロシア側の報道では「戦略的に場所を移動した」)と伝えられていた。


これはゼレンスキーのいう「準備」つまり西側諸国からの武器弾薬支援があるレベルに達したことを意味し、このまま、ウクライナ軍がバフムトを完全に奪還し、ここから予告していた大規模反攻(大反攻)に突入するかは分からない。しかし、この急激な反攻が大反攻の一環あるいは前哨戦であることは明らかだろう。というのも、バフムトは近くに大都市を控え、西からの補給線が通っているという意味では要衝だが、いっぽう、すでに廃墟と化しており、軍事的にも「象徴」的な意味しか残っていないと言われているからだ。

多くの専門家およびジャーナリストたちは、バフムトよりもザポリージャから大反攻は始まると予想してきた。もちろん、プーチンの最大の領土的「業績」であるクリミア半島への進攻も可能性がないわけではないが、「攻めるに易く守るに難い」とされるクリミアの地形および地勢は、いまの状況のなかでは難しいと指摘されることが多い。


前出のロイターの記事「ウクライナ国境近くでロシア軍4機が撃墜される」との記事によれば、ロシア国防省はコメントを控えているとのことだが、戦争支持派の投稿チャンネル、オエニィ・オスエドミテル(発音は正確ではない)は「最も可能性として高いのは、敵は攻撃可能なところまで国境地域に近づいて砲撃したということだ」とコメントしている。いっぽう、ウクライナ大統領補佐官のミハイロ・ポドリャクは、この事件について「正義だ、応報(カルマ)というべき」とコメントしているという。

すでにこのブログでも述べたように、ウクライナはドローンでロシア国内の軍用飛行場を攻撃したと報じられ、また、ドローンでクレムリンを攻撃したのも、ウクライナ内部の組織と無縁ではないと指摘されている。必ずしもゼレンスキーが述べている原則を守ってきたわけではない。しかし、ロシア領土内での4機の軍機撃墜は、規模や戦略的意味からしても、もやは「カルマ(運命)」では済まない戦争行為というべきだろう。

FNNより;ロシアメディアが発表した軍機の墜落映像

 

冒頭の通信社系との重複があるが、ロイターによる報道を少しだけ追加で紹介しておこう。「投稿サイトのオエニィ・オスエドミテルは、ヘリコプターが上空で砲撃を受けて航路からはずれ、地面に激突して燃え上がった動画を投稿している」「ロシア経済紙コメルサントの電子版は、スホイ34戦闘爆撃機とスホイ35戦闘機、さらにMi-8ヘリコプターはウクライナへの侵入を試みていたが、ウクライナ西北のブリャンスク州で『ほとんど同時に撃墜された』」「コメルサントは4機の軍用機が墜落した証拠は提示していないが、多くの戦争支持者のブロガーたちに繰り返し追認されている」。

ちょっと誰のコメントかはチェック不十分だが(要するにメモをどこかにやった)、この攻撃は西側から供与された携帯式のミサイルで行われたとの説があるという。つまり、ジャベリンやスティンガーといった米国製の武器が、すでにロシア国内への攻撃に使われている可能性が高いわけで、これまでの「ウクライナ領内に限定」という原則はもはやないに等しいということだろう。そして、アメリカもそれをもはや是認せざるを得ないだろう。(新しい情報が入りしだい、補足する予定です)

【追加1】米紙ワシントンポスト5月13日付の「ゼレンスキーは、周囲にはロシア国内への積極的攻撃を提案していたことが、漏洩文書で分かった」によれば、すでにゼレンスキーはロシア国内攻撃を側近に提案していたことが、機密漏洩事件で流出した文書に記載されていたことで明らかになった。戦争の論理からすれば当然のこと(註1)だが、その後もゼレンスキーと米国は、西側支援国および自国民へのタテマエのために、あたかも「自国内防衛」あるいは「専守防衛」が正しいと装ってきたことになる。ここには欺瞞があり、その欺瞞を最も強く要求していたのはアメリカということになる。

註1)ちょっと考えればわかることだが、戦争になっても攻められたときだけ反撃するという戦術は、自国を積極的に戦場にする自殺的行為であり、敵国領土からやってくる爆撃機やミサイルを先制攻撃できないため、手を縛られたような戦いになってしまう。これを敢えて遂行すべきだという人もいるが、それは同胞の生命を無為に犠牲にすることになり、国民がガンジーのような徹底した平和主義者になって、平和主義に殉教でもするのでなければ不可能である。ちょうど、ゼレンスキーがドイツを訪問するのに合わせて、ドイツでは過激平和主義者たちによる「ウクライナは戦争を放棄せよ」というデモが行われた。(フランクフルター・アルゲマイネ紙5月14日付「彼らはウクライナに敗北を要求している」)彼らは不遜にも自分たちの理念のために、他国民であるウクライナ人に生命を差し出せといっているのだ。