ロシアの旗艦モスクワがウクライナの対艦ミサイルの攻撃をうけて沈没したことは、アメリカの偵察機がかなり早い時点で確認していたのではないか。ウクライナのオデーサ市長が最初にその事実を発表するという奇妙な事態も、世界の多くのメディアがロシアが沈没の事実を認めるまで報道を控えたのも、参戦していない国が情報源だったからではないか。
英紙ザ・タイムズ4月20日付は「ウクライナ戦争:米国のスパイ機がロシアの旗艦モスクワが沈没する前に黒海を偵察していた」を掲載している。いまさら何をいっているんだと言う人がいると思うが、原則として参戦していないアメリカが、戦場の細かい情報をウクライナに提供していたとなると、すでにアメリカは事実上の参戦国となってしまう。
同紙は民間飛行機の飛行追跡アプリである「フライトレーダー24」のデータに基づいて、シシリー島にあるアメリカ軍基地から飛びたった「ボーイングP8ポセイドン」が、旗艦モスクワが攻撃を受けて沈没したと思われる時間帯に、ウクライナ国境に近いルーマニア上空で偵察を行なっていたことをつきとめている。
以下の図版・写真はThe Timesより
それによると、ポセイドン機はウクライナ時間の午後3時27分にウクライナとの国境から12マイルの上空にいたが、その後、フライトレーダー24のモニターからは姿を消し、2時間56分の間はどこにいるのか分からなくなり、午後6時23分にルーマニア上空でいったん現れ、19分後にまたレーダから消え、そして午後7時24分にルーマニア南部上空に再登場して、シシリー島の基地に向かって飛び去った。
専門家によれば、航跡が分からない時間というのは、ポセイドン機に積まれた飛行位置を示す信号発信装置のスイッチを切ったのだろうという。モスクワが被弾したという情報が、最初にウクライナ義勇軍によって正規軍に伝えられたのが午後8時42分、そして同10時31分にオデーサ市長がミサイル攻撃の成功について発言したわけである。
アメリカの国防省長官ロイド・オースティンは、ウクライナ東部ドンバスのウクライナ軍に、アメリカが4月になってから情報を提供していることを認めた。同紙によれば「これはアメリカ政府が、国家機密をキーウ政府と共有していることを告白した最初の発言」だったという。
独立系の飛行データ分析専門家のアメリア・スミスは、「4月13日のポセイドンの飛行は異例というわけではないが、完全に普通だというわけでもなかった」と述べている。スミスの分析によれば、ポセイドンが飛んだ日というのは、黒海の上空をアメリカ機がかなり多く飛んでいたらしい。
では、こういうことを非参戦国が行うのは問題ではないのだろうか。防衛問題に詳しい専門家は「NATOによる側面的な支援はすでにずっと行われているし、きわめて限定的なルーマニア海岸のパトロールもやっている。しかし、そこで行われている作戦上の詳細情報を伝えるということはやらないだろう」と述べている。
戦時国際法に照らすとどうなのかはともかくとして、すでにアメリカもNATOも武器や資金の支援はかなり行っている。それどころか、NATO側は新しい武器を供与するさいには、インストラクターを派遣している。そうしなければ、ウクライナ軍はその武器を使えない。そして、そうしたインストラクターはハイテクに詳しい優秀な元軍人で、いまは民間軍事会社の「社員」というのがいまの戦争の常識だ。すでに構図としては、ウクライナ戦争はほぼ完全に「代理戦争」の様相を呈しているわけである。