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東谷暁による「事件」に対する解釈論

なぜ米民主党にはバイデンしかいないのか;大統領選に向かうアメリカと世界の憂鬱

いよいよアメリカ大統領選挙の年が近づいてきた。このままいけば民主党の候補者はバイデンだというが、いったい何故なのだろうか。共和党がトランプというのは、それなりに理由がある。勝てるからである。しかし、これまで民主党がバイデン以外に有力候補者を見い出せなかったというのは、あまりにも不自然ではないか。


経済誌ジ・エコノミスト12月15日付は「民主党はバイデンに代わる大統領候補はいないのか」を掲載しているので、まずは、この記事にそって考えてみよう。同誌はこのままでいくとバイデンとトランプの対決ということになるが、それで民主党はいいのだろうかと書き始めている。

「バイデンは次の4年も大統領をやって、それで政治的キャリアをお仕舞いにするといっている。しかし、最近の世論調査によれば、民主党支持者の約40%が、そんな『悠長』な引退を望んでいないのだ。そもそも、バイデンが大統領になったとき、すでにアメリカの歴史で最も高齢の大統領だったのだ。アメリカ人の55%以上が、彼が大統領になることに同意していない。いまでもバイデンはトランプと同じくらいか、トランプより少ない支持しか得ていない。民主党はバイデンと心中するつもりなのだろうか」


同誌によれば「もちろん、選挙制度的にはまだわからない」という。つまり、世論調査で見れば、バイデンは民主党の大統領候補となることが決定しているように見えるが、これから大統領予備選が始まり、それは延々と続く。いまの数字だけをみて、バイデンがやすやすと大統領候補になれるとは限らないというわけだ。しかし、もう少し視野を広げれば、バイデンが候補に選ばれ、しかも、敗北を喫する可能性はますます高くなっている。

まず、現職の大統領は予備選において圧倒的に強いというのがアメリカの歴史を見れば分かる。民主党の大統領で例外は2人、つまり、リンドン・ジョンソンハリー・トルーマンがいるが、彼らは2人とも前任者が急死したために大統領になったのであり、しかも、他に有力候補が存在していた。ところが、バイデンについては、いまや有力どころか予備選でちゃんと競り合える候補がいるかも分からないのである。


たとえば、バイデンに対抗している政治家としては、まず、マリアンヌ・ウィリアムソンがいるが、彼女は自立についての本を書いたライターにすぎない。また、ディーン・フィリップという人物はミネソタ選出の政治家だが、あまり知られていない。副大統領のカマラ・ハリスはどうだという人もいるかもしれないが、バイデンが続投しないほうがいいという人の3分の2は、彼女が代わりになるとは考えていない。カルフォルニア知事のギャビン・ニュートンもいるにはいるが、彼は2028年の大統領選を狙って準備中だ。

これまでも次々とバイデンの対抗馬として名乗りだけはあったが、すでにこれまでほとんどが脱落している。はっきりいって、これから名乗りをあげても、もう準備期間が短くて、たとえ予備選に出ても、ろくな戦いはできないだろうと同誌は見ている。2020年のバニー・サンダースのように、最初は注目されても基盤ができていなければ、戦い続けることはできない。また、マイク・ブルーグバーグのように、現役は引退することになっていた場合で、しかも、1億ドルをばらまいても最終的な選考まで残れなかった。


ここでジ・エコノミストは面白いことをいいだす。「バイデンがこれから急に立候補を取りやめたらどうなるか」というのだ。バイデンは2023年の早い時期には立候補することを表明しており、民主党もそのつもりで準備してきた。ここでバイデンが(たとえば、健康上の理由から)消えたとしたら、民主党は危機に陥り敗北するだろう(あたりまえだ)。その意味でも、バイデンはもう降りることはできないのである。

「バイデンは最善の選択ではないが、しかし、今の段階では、民主党はもう作戦を変える余地はなくなっている。もし、これから作戦を変えて党内の混乱が生じれば、トランプとの対決もますます不利になっていくだろう。ちなみに、前出のトルーマンとジョンソンの場合、2人とも候補になることは避けたのだが、その結果、民主党は大統領の本戦で惨めな敗北をしている」

どうも、ジ・エコノミストはバイデンしかいなくなったことについて、制度的な問題とか候補者の不在に注目しているのだが、これでは事態の本質を十分には捉えられないように思われる。なぜなら、こうした窮地に陥ることは、2020年にバイデンを候補者に立てたときから分かっていたからだ。このときにはハリスが次の候補であるように見せていたが、バイデンも民主党幹部も本当はそうは思っていなかったのだ。


それはハリスの政治家としての行動を見ていれば、素人でも分かったことで、最初からバイデンに代わって何かをやれるというパフォーマンスをやりもしなければ、また、おそらくそう振る舞うことに何らかの邪魔が存在したのだろう。それならば、民主党の年配の有力政治家が新しいスターを育てていくという選択肢もあったはずなのだが、ほとんどそうした育成の営みもなかったように思われる。

そうした動きはあったものの、2期目にこだわるバイデンが潰したということもありうるが、それならそれで反バイデンの勢力が生まれなかったことも不自然である。結局、この大統領は高い率のインフレを引き起こし、中国との経済戦争を悪化させ、ウクライナ戦争もイスラエルハマス戦争も解決への糸口を作ることができないまま、2期目もやりたいといっている。バイデンの自制心のない権力への執着と、民主党内部の信じられないような弛緩によって、いまの事態が生まれたというしかない。