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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ポスト・コロナ社会はどうなる(2)テレワークのデータを見直す

前回述べたテレワークのデータには、驚いた人がいたようだ。新型コロナウイルスへの対抗措置として緊急事態宣言が発せられても、実施率13%そこそこというのには憤りを感じた人もいて、私の友人は「アメリカは85%だぜ。お前のデータおかしくないか」と連絡してきた。このアメリカ85%というのは完全に勘違いだが、先に進む前に、テレワークのデータについて、少し述べておいたほうがいいかもしれない。

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 日本ではテレワークというようになったが、英語ではテレワーキングあるいはテレコミューティングと呼んでいる。別に外国に合わせる必要はないので、以下もテレワークと書くが、呼称が違うだけでなく、その調査基準がかなり違っていて、私の友人が勘違いするのも無理はないと思われるところもある。

 彼のいう85%というのはWorkdatWorkというところの2015年の調査で「導入率」の数値だ。それなら正しいじゃないかという人がいるかもしれないが、この導入率というのは、単にあなたの会社ではテレワークをやっている人がいますかという質問に対する答えに過ぎない。テレワークがたった1時間でも、たった1人でもこの数値に入っている疑いが濃厚である。

 そもそも、日本でこのWorkdatWorkのデータを載せているのは、総務省の「テレワーク情報サイト」だが、明らかにこのサイトはテレワークを普及させたいという意図で設置されているもので、使えるデータはなんでも使うという傾向があるのではないかと思われる。たとえば、まず、次のような文章をお読みいただきたい。

 「IPSOS社が2011年に24か国11,383名に実施したオンラインアンケート調査によると、今、世界ではおよそ5人に1人(17%)が頻繁にテレワークを実施しています。テレワークの最も盛んな地域では、新興地域です。北アメリカ(9%)、ヨーロッパ(9%)であるのに対し、中近東及びアフリカ(27%)、ラテンアメリカ(27%)、アジア太平洋(24%)と高くなっています。テレワーカーは、高学歴、年齢35歳未満、高所得者に多く、男性(19%)が女性(16%)より若干多い傾向が見られました」

 もう、これだけで「え? ほんとなの」と思う人は多いだろう。さらに、この後に「地域別動向」という節が続いて、先ほどのアメリカ「85%」を含む表や、カナダの「就業者の19%」という記述が出てくるのである。北アメリカってアメリカ合衆国とカナダだけじゃなかったっけ? などと疑問に思うのが当然で、どうして、それなら北アメリカ(9%)という数値が出てくるのか分からなくなる。

 そこでIPSOS社のデータを探すと、これはIPSOS社とロイター社による調査のことで、ネット上でThe World Word: Global Online Employees…… とかで出てくるレポートがある。まず、気をつけなければならないのは、この調査というのがオンラインで個人に対して行われていることで、すでに母集団はパソコン所有者に限定されているということだ。当然じゃないかという人もいるだろうが、この母集団は先進諸国と新興国では条件が違いすぎる。さらに、17%の内訳を見ると、7%が「毎日、メインの職場を離れて家庭から」であり、残りの10%は「毎夕あるいは毎週末」に職場と連絡する程度のものである。

 ということは、北アメリカやヨーロッパの9%というのも、フルタイムで自宅から職場との連絡を絶やさない本格テレワークは、このうちの半分以下の可能性があり、これまでの日本での5%とか、新型コロナ蔓延後の13.2%というものと、それほどの違いはないのではないだろうか。日本のテレワーク推奨記事で、しばしば出てくる「アメリカの普及率は80%以上」とかの記述をそのまま鵜呑みにできないゆえんである。

 付け加えておくと、たまたま見つけたGlobal Workplace Analytics というテレワーク関連の書籍を紹介しているサイトに、さまざまなテレワークの統計の断片が載っている。このなかにも、「現在の在宅勤務、労働時間の半分ないしそれ以上の人は500万人(アメリカの労働力の3.6%)」という納得しやすい数字があるかと思えば、「80%の労働者が少なくとも今後、在宅勤務をのぞんでいる」というデータもあって、ここでも母集団や調査基準がばらばらで、数値そのものだけではまったく実態が分からないといってよい。

 自慢できることではないが、まだ、パソコンの普及期(いわゆる98がでてきたころ)に、あるパソコン雑誌およびパソコン・マニュアルを発行している出版社に勤めたことがあった。この会社が「一般誌」をやりたいということだったので新設の編集部に入ったのだが、方針をめぐって混迷した。その間、フリーの編集スタッフが食つなぐために、政府系外郭団体が刊行する、パソコン普及のためのレポートをつくる、アルバイトに参加するはめになったことがあった。

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 何人かがその種の仕事に慣れていて、あれこれ教えてくれたので苦労はなかったが、そのやり口というのがなかなかのものだった。つまり、パソコン普及を推奨できるなら、かなり矛盾していようと、いいかげんであろうと、使えるデータは使うというやり方なのである。運よく私の担当箇所にはデータ提示がなかったが、これでは読んだ人は誤解するだろうと言うと、その先達氏たちは、どうせ読む人なんかいないから大丈夫だよといっていた。ひどいとは思ったが、そのままにしたので同罪である。

 テレワークの記事やデータがすべてそうだとは言わないが、せめて矛盾しないデータの使い方くらいしてはどうか。しかも、内外を問わず「テレワークの普及のためなら、多少のことはいいだろう」と思い込んでいるようなのがあって、これではまっとうなテレワークの普及にも支障をきたすのではないかと心配になる。ちなみに、私はフリーになってからというもの、自宅で仕事をしてメールで原稿を送ってきたので、フルタイムの自営業テレワーカーである。

 

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