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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国は本当にコロナに勝利したのか;春節を前に感染爆発におびえる北京

2020年12月30日のニューズウィーク電子版によると、中国政府は北京の一部での新型コロナ感染拡大に対し、ロックダウンを行ったという。もちろん、部分的なものだからパーシャル・ロックダウンあるいはローカル・ロックダウンというべき規模と思われるが、実は対象となった北京市順義区は、すでに28日に警戒レベルに上がっていた(ロイター12月28日付)。

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 「北京市は29日、新型コロナウイルス感染拡大を受け、市北東部の順義区の一部を閉鎖した。北京市内のロックダウン(都市封鎖)実施は6月―7月以降で初めて。市当局は大規模イベントを中止すると同時に、住民に対し外出を控えるよう呼び掛けている」(ニューズウィーク

 同日のウォールストリート紙は「香港発」だが、もっと踏み込んだ内容を盛り込んでいる。「北京市の関係者は先週、旧正月に言及し、『人々の移動や集まりが増え、感染予防と抑制は大きな試練に直面するだろう』と述べた。2021年の旧正月は2月12日に始まる」。つまり、この事件は来年の春節旧正月)後に本格化するかもしれない、コロナ再感染爆発の予兆かもしれないのだ。

 旧正月つまり春節で思い出すのは、日本では豪華客船のコロナ感染拡大が話題になっているとき、中国からの「個人的な旅行客」が何のチェックも受けずに日本に入ってきて、日本国民を驚かしていた。中国としては「団体旅行」は禁じたが、「個人の旅行」は禁じていないとの建て前だったが、その後の日本国内での騒動は、このときに始まるといってよい。ウォールストリート紙は次のように述べている。

 「北京政府は旧正月を祝うことを禁止するのではなく、個人的な集まりや不要な移動を自主的に減らすよう住民に訴えている。政府関連企業や作業部門に対しては、従業員が祝日前後にスケジュールをずらして休暇を取ることを容認し、一斉に大移動が起こるのを防ぐように勧告している。人々は例年、帰省や休暇のために連休のはじめに移動している」

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いまの日本の首相は、中国首脳の訪日とそれに伴う権力発揚を目指してはいないので、安倍前政権のように中国からの渡航を歓待することはないと思われる。それでも気になるのは、中国がこれからやってくる春節後をどう乗り切るかである。いったん、コロナに対する「勝利宣言」を派手にやったのだから、「やっぱりまだ無理でした」といって、各地でロックダウンをするのを、簡単に是認するとも思えない。

 少し前の報道だったが、(たしか朝日新聞だった)武漢はいまダンスホールのブームで、感染拡散の前よりも賑わっているという。前出のウォールストリート紙も記事の締めくくりに、いかに中国政府が柔軟になったかを強調している。「(北京で)隔離中の住民のひとりはインタビューで、『措置は厳格だが、隔離期間中でも住民の不便を抑える配慮がある』と語った。『この徹底ぶりは、中国の新型コロナ感染防止の一番大きな要因だと思う』」。

 しかし、中国のコロナ対策については、いまも分かっていない部分が多い。12月29日のBBC電子版では「中国の新型コロナ:いかにして国家メディアと検閲機関はコロナを抑え込んだか」を掲載して、昨年の武漢での最初のコロナ感染発生から、中国政府がどのように情報戦略を展開したか、かなり詳しく追跡している。

 「BBCのケリー・アレンとツァオイン・フェンは、中国政府の検閲機関が、政府のインターネット規制を潜り抜けて拡散される否定的情報を、これまでにないほど厳しく押さえつけ、また、プロパガンダ機関がいかにして、ネット上を流通する話を書き換えてきたかを追跡している」

 詳しい記述は、この文章が投稿されるころにはbbc.comで日本語版が流れていると思われるので、そちらで読んでいただきたいと思う。ここでは概要だけにしておく。コロナ感染が明らかになってから2020年1月から2月にかけては、さまざまなメディアで、内部事情を含めたものが流されていた。

 ところが、おそらく北京政府の方針が変わって、そうした類のレポートはメディアからしだいに締め出されていく。1月中ごろからは習近平がメディアからいったん姿を消してしまい、また、公の場にも姿を現さないようになっていく。「習近平を批判から、物理的にも、遠ざけることが試みられたと思われる」。

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この状況は1月下旬になると再び変わっていく。中央政府の高官が地方政府に対して、もし地域でのコロナについての情報を隠蔽するようなことをすれば、「それは永遠に歴史的な恥となる」などと警告を発するようになった。まずいことが起こっているとすれば、それは地方政府のせいだというわけである。2月の初めになると、習近平が再登場するようになって、コロナ撲滅の陣頭指揮を始めるのである。

 その一方で、武漢の医療現場から新型コロナの脅威を発信した医師・李文亮は、武漢市当局に呼び出され、「デマを散布した」として訓戒処分を受けた。李医師はコロナに感染して2月には死去してしまい、世界中から中国への批判が殺到した。3月になってから中国政府が「新型コロナ抑制に貢献した」として表彰したが、あまりにも白々しく露骨な情報操作といえる。

 他にも、多くの民間のジャーナリストが中国国内のコロナ禍について、当局の情報統制をかいくぐって報道するが、その何人かは逮捕され突然姿を消している。たとえば、ユーチューバーの李沢華は、2月に警察に逮捕されて、2カ月ほど拘束されたが、その後、政府に協力させられているとの噂があり、ユーチューブへの投稿はなされていない。

 3月以降は、中国政府はコロナとの戦いに勝利したと強調しているが、若者たちを中心に不満の声が渦巻いた。特に8月に大学の学生たちがキャンパスに復帰してからは、全国の大学で不満が爆発する現象がみられた。あまりに過剰な詰め込みのために、インターネットがパンクするとか、シャワー時間が短いのがが原因だといわれる。

 中国政府はトランプ米大統領の「コロナは中国から来た」という発言に反発して、コロナは逆に「アメリカ・ウイルス」であり、「トランプ・ウイルス」だとプロパガンダを展開して、西側はコロナを政治利用していると印象付けようとしている。中国はコロナを見事に封じ込めたが、西側は現実において失敗しているというわけである。

 こうした欧米のメディアによる報道を見てくれば、今度の北京における「ロックダウン」が、かなりの度合いで北京政府をいらだたせるものであることは想像できる。世界中でコロナ・ワクチンの接種が始まっているが、いま中国で接種されているといわれるワクチンがどのようなものかすら報道されていない。たとえ何らかの成果をあげていたとしても、来年の春節までに中国国内に普及させるのは不可能である。

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では、いまの時点で、北京の順義区で行なっているようなロックダウンを、他の地域でもどんどんと実施していくのかといえば、コロナに勝利したはずの中国としては、なんとか避けたいところだろう。また、ウォールストリート紙が伝えているように、中国政府のコロナ対策がソフトなものへと転換しているならば、武漢でのようなハードな対処は困難になっているのかもしれない。

 しかし、いずれにしても来年の2月12日はあっという間にやってくる。それまでに中国政府ができることはそれほど多くない。今回の北京でのローカル・ロックダウンから、親戚同士が会いに旅行する春節での数億人の人口移動へと至る期間の後に、中国が本当にコロナに勝利していたのか、試されることになる。

 

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