HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

プーチンはゼレンスキーを殺さない?;イスラエル元首相の証言が生み出す波紋

ウクライナ戦争が開始された後に、プーチン大統領と会談したしたイスラエル前首相のナフタリ・ベネットは、プーチンが「ゼレンスキーを殺すことはない」と約束したと発言して話題になっている。もちろん、これは暗殺などの手段で殺害はしないということだと思われるが、さまざまな憶測を呼んでいる。


独紙フランクフルター・アルゲマイネ2月5日付は「プーチンは私にゼレンスキーは殺さないと語った」との短い記事を掲載した。この記事によると、ナフタリ・ベネット氏は、昨年5月にロシアを訪れてプーチン大統領と調停のための会談を行ったが、そのさい、プーチンはゼレンスキーを殺すことはないと約束したと、イスラエルのジャーナリストに語っているという。

当時ベネットはイスラエル首相の職にあり、ウクライナ戦争が始まってから最初にプーチンを訪問した西側のリーダーだった。その後もロシアとウクライナとの停戦調停は行われたが、すべて失敗に終わっている。ベネットは2月4日夜にフェイスブックに投稿して、「私はゼレンスキーは危機にあったことを知っていた。彼は場所が分からない指令室に籠っていた」と書いている。ベネットは、プーチンとの4時間にわたる会談を行ったが、「ゼレンスキーを殺す気なのか」と聞いたところ、プーチンは否定したと語っている。


会談の後、ベネットはクレムリンからの帰途、ゼレンスキーに直接連絡をとり、「いまプーチンとの会談から帰る途中だが、彼はあなたを殺さないだろう」と伝えた。ゼレンスキーは本当かどうか聞き返したので、ベネットは「100%確かだ」と答えた。それから2時間ほどして、ゼレンスキーは指令室にいてビデオの撮影をしたという。

なかなか生々しい証言だが、まず、ウクライナ戦争が始まって2カ月余の時点なので、それがいまも有効かどうか不明だ。さらに、そもそも、当時のイスラエル首相に語ったこととはいえ、なぜそれが守られるのかという点からして明らかではない。フランクフルター紙はこのベネットの証言について、詳しい分析をしていないので何とも言えないが、やや、ベネットの手柄話(あまり内実のない)の匂いがしないでもない。

このあとウクライナは、アメリカを中心とする西側諸国の膨大な武器の援助によって、急速に武装化することによって、ロシア軍が攻めあぐねる武装国家となっていった。そしていまや、西側諸国から強力な戦車を150両ほど供与の約束を取り付け、それがいま実行されようとしている。はたして、こうした内情の暴露をいま行う理由は何だろうか。あらたな調停ルートの提示だろうか。それとも間接的な威嚇だろうか。

ウクライナ政府の発表によれば、ロシアの暗殺団は何度もゼレンスキー暗殺を試みているとのことで、それが本当ならベネットに語った「約束」もまったく守られていなかったことになるから、このベネット証言は、現実の戦略にはあまり影響を与えることはないだろう。そしてまた、ウクライナ側としても、この証言を信頼して今後の外交を決めるということはあり得ない。


相変わらずアメリカが「ロシアが他の国に2度と侵略できないほどロシアを弱体化させる」という代理戦争の目的を転換させないかぎり、ロシアの規模を拡大した攻勢は行われるだろうし、それに対するウクライナの(供与されたふ戦車などを使った)迎撃戦も展開されることになりそうである。しかし、ロシア軍が攻勢をかけるまでに、本当にウクライナ側は戦車を手に入れ、戦車に乗り組む兵士たちは訓練を終えることができるのだろうか。

 

【付記】ツイッターで短評があり「無能な考察」とあるのは仕方ありませんが(笑)、「戦車戦」と書いているのが「第一次大戦」じゃないのだからありえないとの意味の指摘もありました。しかし、戦車戦などと書いた覚えがありませんし、上の文章を見ていただければ明らかです。なぜ、そうした感想をもたれたのか分かりません。しばらく最初の投稿のままにしておきます。「ふ戦車」というのは「戦車」の間違いです。