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東谷暁による「事件」に対する解釈論

「平和勢力」を演じる中国の習近平;バイデンの硬直した姿勢では出し抜かれてしまう

ウクライナが大規模な反撃で成功したらどうするか。実は、これが世界の喫緊の問題となりつつある。そしていま、その大きな役割を担いそうなのが中国なのである。それは好ましいか否かは別として、アメリカがいまのような状態でいるかぎり、平和を復活させたのは習近平だったということになってしまう。もちろん、来年のアメリカの大統領選挙の結果によって、多少のブレはあるとしても。

 


戦争に勝つという意味が、相手を完膚なきまでに叩き潰して、無条件降伏させることと思い込んでいる人は多い。とくに日本に多いのは、太平洋戦争がまさにそうした終わり方をしたからだろう。しかし、ウクライナ戦争がロシアのモスクワが西側勢力に占領されて、ロシアが崩壊するという終わり方をするというのは、(一部の親米ジャーナリストは書いているが、)現実にはあり得ない。では、どうするのか? そしてその担い手は誰なのか。

ウクライナの大反抗が近づきつつあるいま、その結果にかかわらず、その次に来るのは何か、しっかりと考えておくべきだろう。英経済紙フィナンシャルタイムズの国際政治担当コラムニストであるギデオン・ラックマンが同紙5月1日付に掲載した「中国はウクライナ戦争の終わり方に決定的な役割を果たすかもしれない」は、ひとつのヒントになると思われる。


り返しになるが、いまの日本における報道は「悪辣なプーチンが民主国ウクライナを侵略しているから、プーチンをリーダーから引き下ろさねばならない」というものだから、どうやったら和平交渉を始められるかと述べただけで、かなりの反発が予想される。ことに英国やアメリカではそのようだ。しかし、そのような戦争の終わり方は、現代ではごくまれであり、どこで停戦に持ち込むかが最大の課題である。そもそも、アメリカすらもそんなことを望んではいないのだ。

ラックマンが指摘しているのは、中国はロシアがウクライナに侵攻した当初は、早い終結を予想していたが、それがまったく狂ったために、新しい路線を目指すようになったということだ。ロシアがすぐにもキーウを占領、あるいはそれに準ずる勝利を得ていれば、中国はロシアとの「無限の同盟国」であってもよかった。しかし、いまのような状態になってしまったら、ヨーロッパやアジアをはじめとする輸出先との関係が悪化し、さらに、新興国に対しても指導力を失ってしまうと憂慮するようになったという。


「北京政府にとって最もよい打開策は、目に見える形で積極的な役割を果たして戦争を終結に導き、ヨーロッパでの評判を取り戻すことなのだ。しかも、そうすれば世界に対する影響も大きくなり、アメリカは後退しつつあり、中国は平和勢力だという主張をも、サポートすることになるだろう」

中国が追い詰められてこの打開策を採用したと考えると間違うことになる。これまでも新興国を糾合するために「一帯一路」を活用するだけでなく、最近はイランとサウジアラビアの仲介を買って出、また、イスラエルパレスチナの紛争解決にもかかわろうとしている。いってしまえば、少し前までアメリカが果たしていた役割を、いまや中国が果たそうとしているのである。

もちろん、アメリカの外交筋は、この中国の動きに対して危機感を募らせている。ウクライナ戦争においても、ロシアが徹底的にたたかれて足腰立たなくなるまで戦争を続けるといっているわけだから、ちょっと間違えば「反平和勢力」と批判されかねない。(いや、事実上、ウクライナをめぐるバイデン大統領の言動は。もう、そういわれても仕方のないところまで来てしまっている。)


ラックマンにいわせれば、いまもアメリカの外交は「ウクライナのゴールは、プーチンの時代が終わるまで徹底的に勝つこと(勝たせること)」なのは変わりないが、それは長期に見ればのことである。「もっとあり得る事態は、ウクライナがその先にある和平交渉を目指して、これからの戦場でのパワーを強化させること」なのだという。

とすれば、ウクライナがどこまでロシアを追いつめるかはまだわからないが、わかっているのは「誰が猫に鈴をつけるか」である。「そしてそれに対する答えは中国であるというものだ。ひとり習近平だけが、公の席でプーチンと笑って話せる存在なのだ。そしてその行動は、(平和主義とかいうものではなく)自国の利益をしっかり確保するためなのである」。