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東谷暁による「事件」に対する解釈論

クリミア橋が再びウクライナに破壊される!;ロシアにとっての実質的および象徴的意味を考える

クリミア橋が再び攻撃され、かなりの損害が出たと報道されている。ロシアにとってクリミア半島とロシアをむすぶ唯一の橋といわれ、その破壊の度合いによっては、これからの戦局に大きな影響を生み出すと思われる。ロシアとしては、なぜ2度目の攻撃が阻止できなかったかが、大きな問題となるだろう。

 

米経済紙ウォールストリートジャーナル7月17日付は「ウクライナの攻撃がクリミアとロシアをつなぐ橋を使用不可能に」を掲載して、その破壊の概略を伝えるとともに、ビデオや取得できた写真を添付している。「この橋はプーチン大統領の占領のシンボルとなっており、ロシアからウクライナへの供給ルートの一部をなしている」。攻撃は水上ドローンによるものではないかとの情報もある。


まず、ロシア側の発表から見てみよう。ロシアはこれは「テロ」だと非難し、副首相マラト・フスヌリンは、橋の双方向の荷物輸送路が(使用できるレベルまで)修復されるのは9月中頃になり、11月までには12マイル全体が完全に再建されることになると語っている。完全に破壊されたわけではないとのイメージを発しているようだ。

いっぽう、ウクライナ情報部のスポークスマン、アルテム・デグティアレンコがウクライナの報道機関に語ったコメントによれば、このクリミア橋への攻撃がどのように計画されたかについては、ウクライナの全面勝利の後に詳しく発表されることになると述べ「どのような違法な殺人行為も長く続けることはできない」と付け加えた。


このクリミア橋は2014年にロシア軍がクリミアを占領したのちに着工され、2018年に完成した。プーチン大統領にとっては勝利記念モニュメントでもある。ソ連の崩壊によって分裂してしまった、「本来はひとつの」ロシアとウクライナを、再び結び付ける「橋」としての意味が付与されてきた。

ロシアによるウクライナ侵攻後の昨年10月、プーチンの誕生日の数時間後に、すでに最初の攻撃が行われ、世界の注目を集めた。戦略上の大きさと並んで、今回もロシアとウクライナは互いにシンボル的な意味を与えつつ、この橋の攻撃と防御を繰り返していると思われる。では、今回の実質上の影響はどれほどのものになるだろうか。


ホワイトハウス国家安全保障会議のスポークスマン、ジョン・カービーは、ロシアにとって戦争遂行能力に対しての多大な打撃にはならないのではないかと語り、ロシアはクリミア半島にいる自国軍への補給路は、ほかにも多くあると付け加えている」

同紙は今度の攻撃が、予想以上に進まないウクライナの反転攻勢に代わる攻撃の一環として、行われたのではないかとの見方を紹介している。すでに報じられているようにウクライナは、反転攻勢のさいに戦力の20%を失ったといわれる。ただし、こうしたインフラ攻撃は、前回同様、ロシアに民間インフラ攻撃への口実を与えるものとなることは間違いない。すでにプーチンは報復を宣言している。


今回のクリミア橋攻撃は、もちろん、かなりの実質的な損害を与えたことは間違いがない。しかし、それが戦略的に決定的な要素にはならない。これは何よりプーチンの権威に対する攻撃であり、戦争全体の趨勢を大きく変えるわけではない。前回と同様、なぜロシアは阻止できなかったのかという疑問と批判が膨らむが、だからといって戦争終結への序曲ではないということである。そして、ウクライナについて見れば、これまでの反転攻勢の行き詰まりを示唆しているのではないか。