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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国経済を破綻させたシャドーバンキングの威力;巨大なバブルを膨らませ破裂させたもの

中国の不動産バブルは、ついに金融・投資家の破綻に及んだ。とくに、バブルの元凶とされるシャドー・バンキングの崩壊が続いている。いわゆる「信託」と呼ばれる投資会社は、経営の不透明さで知られてきたが、破綻してみれば予想以上の悲惨さである。その投資の資金には政府からのものも多く含まれていたため、「金融システム崩壊を政府は放置しない」という暗黙の了解が、長大なバブルとその惨憺たる崩壊を生み出してしまった。


中国経済の実態は、いま政府が数字を「操作」「隠蔽」しているので、なかなか分かりにくい。それに便乗して、中国は回復途上にあり、いま投資すればすごいリターンがあるといった、いかがわしいビジネス誌などの報道すらもあった。しかし、現実に実物経済と金融経済の両方が沈滞しているのだから、さすがにこの種の「引っ掛け」は通用しなくなってきた。

経済誌ジ・エコノミスト8月28日号は「中国のシャドー・バンキング産業は金融システムの脅威となっている」を掲載している。シャドー・バンキングとは、いうまでもなく、正式な銀行ではないのに信用創造を行って、銀行のような役割を果たす金融会社のことである。まるで空中からお金を生み出すかのような、銀行にだけが行う信用創造は、厳しく管理されているからこそ許されている。

ft.comより:中国だけがデフレの道を転げ落ちている。コアCPIは何とかプラスだが、総合はゼロを下回った。ずるずると、中国人民のなかに、政府への信頼への疑いが広がっているといってよい。


しかし、これまでも金融の歴史を振り返れば、さまざまな脱法的テクニックによって、金を供給するさまざまな「シャドー・バンキング」が跋扈してきた。たとえば、持ち金は1千万円しかないのに、この投資は金利が10%つくと言って1億円を集めて投資する。投資した1億円をタネにして、さらにお金を集めて10億円の投資をする。もちろん、投資家が投資するさいに銀行などに資金を借りるが、投信信託会社が貸す場合もあったから、ますます通貨の流通量は膨らんでいく。これは1929年の大恐慌に突き進んでいたアメリカの投資信託に使われた手口である。

また、住宅ローンをもとに証券を組成し、この証券を投資家たちに売る。また、この証券を基に、さまざまなリスクの証券を組成して、リスクに合わせた利回りを設定し、これらをさらに投資家たちに売る。投資家たちは有利なら購入資金を金融機関に借りるから、何十倍もの通貨が市場に出回ることになる。銀行の融資ではないのにレバレッジをかけて通貨の量を増やしていくこの仕組みは、2007年に住宅ローンが焦げ付き始めるまでアメリカで盛んに行われ、翌年リーマンショックを引き起こすことになった。


今回の中国のシャドー・バンキングは、投資信託会社が高利回りの信託商品を投資家に売ることが中心になっていた。このさい信託商品の基にしていたのが、不動産会社が発行しているさまざまな証券だった。不動産会社はマンションを建てて売ったり、契約して街全体を建設したりしながら、そのいっぽうで自社の証券も多く発行してきた。利回りが銀行の利子より高い証券ならば、購入する投資家のための資金を銀行が融資してくれるようになり、さらには銀行自身が購入するようになったので、信用の規模が膨らんでゆき、バブルは巨大なものとなっていった。

もともと不動産業は銀行から直接資金を借り入れて、住宅やマンションを建てていたのだが、信託商品による資金調達のほうがずっと速いと気が付いた。さらには自分たちが証券を発行すればもっと儲かる。しかし、あまりにこの種の資金調達が盛んになると、レバレッジ(てこ)が効きすぎて経済はバブル化していく。中国政府は2017年から規制を強めて銀行は不動産デベロッパーに無制限に貸せなくなったが、規制が緩い投資信託会社からなら資金を調達することができたので、なおもバブルは膨らむことになった。しかし、いったん不動産業の回転が悪くなると、それは投資信託会社へとおよぶことは、こうした資金の流れを見ればわかっていたわけである。

ft.comより:デフレは豚肉の下落のせいで、一過性だとの説があるが、他の食品、交通、住宅の価格も激しい下落を見せている。中国経済不倒神話は終わっている


説明が少し長くなったが、ジ・エコノミストの記事に戻ろう。まず、今年の5月に新華信託が破綻した。これはこの20数年の歴史のなかで、シャドー・バンキングの破綻は初めてのことだったという。この新華信託の破綻は他の信託に波及し、8月14日に大手のトップクラスである中融信託に及んだ。同信託が設定運用している信託商品が、期日までに返済されなかったのである。

いま中国で注目されているのは、こうした「信託会社の危機の感染(コンテイジョン)」=波及で、「信託会社による貸し付けは至る所で行われ、しかも、そのほとんどが関係者以外にはわからない不透明な性格をもっていた」。中融信託の場合は、その出資者に有名会社も多く含まれていたが、それらの会社のほうも苦しい経営のなか、なるたけ高いリターンを求めて中融に投資していたのである。


いっぽう、他の信託会社も総額で約4兆6000億元(1元=20,18円/8月28日)を株式、債券、ファンドなどに投資している。さらに彼らは中国の地方政府が行っているプロジェクトに融資も行っており、「いまや中国の都市や地方はこうした融資への返済のために必死の状態だ。その負債額は2022年末現在で57兆元にも達すると想定」されているという。

中融の危機によって、危機の感染路として見られるようになっているのが、中融を傘下におく中植企業集団である。この企業グループは全体で資産1兆元を保有しているといわれていた。しかし、いまや傘下のいくつかの企業が大きな問題を抱えており、グループ内の企業から企業へ問題が波及するのは確実とされ、すでに15万人の富裕層への2300億元の支払いが停止している。

ft.comより:急激な価格下落は住宅関係やオフィス関係にはなはだしい。しかし、デフレは日本でもそうだったが、急速にではなくじわじわ進行する。中国経済の停滞はこれからなのである


「こうしたグループ内だけでなく、感染路は信託会社同士にも、また、地方政府と不動産デベロッパーとの間にもある。また、大手金融会社がトラブルに巻き込まれて、投資家に脅威となる可能性が存在する。すでに中融のトラブルは中国株式市場のパフォーマンスの低下に貢献している。ベンチマークとなっているCSI300などは、この1カ月で6%も下落している。8月27日の印紙税引き下げなど、当局による介入もあったが、ほとんど効果はなかった」

このように同記事をざっと眺めただけでも、いまや中国の金融システムがとてつもない危機に陥っていることが分かる。もっとあけすけにいえば、かつては野放図な繁栄を生み出す創造装置だったものが、こんどはバブル崩壊を加速する破壊装置として働いているということだ。「バブルの形成期にはシャドー・バンキングといえども、国家は何らかのかたちで保証してくれているはず」という「暗黙の了解」を信じてしまっていたが、バブルの崩壊期にはなおも「政府と中央銀行はけっして巨大な金融システム崩壊を放置しない」という神話が働いていた。そしていま、人民は経済繁栄というものの裏側を知って、そうした神話の威力も消え去ろうとしているのである。

恒大集団のデフォルト騒ぎは、ほんの前奏曲に過ぎなかった


もちろん、いまやいかなる国でも、政府と中央銀行はどのような市場崩壊をも放置しないというのは正しい。そもそも、放置しようと思っても政治的に放置できないのだ。しかし、そうした認識において決定的に間違っているのは、政府と中銀は誰にも損失を与えないように介入すると信じ込んでいる点である。そうではない、政府と中銀は市場をもっとも効率よく安く救済しようとするが、どんな参加者も守るわけではない。そしてまた、その介入は必ずしも適切に行われるわけではないのである。