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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ロシア軍の戦死者はどれだけ増えたか?;グラフでみるプーチンの軍隊の内情

ウクライナのゼレンスキー大統領は自国の戦死者数を3万1000人と発表した。では、ロシア側の戦死数はどれほどになっているのか。ゼレンスキーによればウクライナの6倍だそうだが確認されていない。ロシアの死傷者数は31万5000人とのロイターによる報道もあるが、同国の軍事要員が36万人であることを考えるとちょっと大雑把すぎる。データの収集分析を続けている英経済誌ジ・エコノミストが、グラフ化して推計値を報じているので、まずはそれを見てみよう。


ジ・エコノミストは昨年7月にロシアの戦死者数を推計しているが、このときは4万人から5万5000人だった。今回、同誌2月24日号に発表した数値は「ジャンプ」して2023年12月31日現在で6万6000人から8万8000人になったという。幅がかなりあるのは、この数値があくまで推計によるためだが、これから説明するように、ある程度信頼性のあるデータを基に計算していることは確かだろう。


これまでもさまざまな推計が発表されてきた。たとえば、英国国防省の発表ではロシアの戦死7万人、死傷者29万人から35万人とされていた。アメリカの高官が口にした概数では多く見積もって12万人が戦死している可能性があるとされた。他にもさまざまな試みがあるが、それらを並べてみたのがグラフ1⃣である。UK MODは英国国防省CSISアメリカの戦争研究所、US offisialsがアメリカの高官、そしてMediazonaとMdeduzaがジ・エコノミスト誌の重視しているロシア国内の独立系メディアである。


この2つの独立系メディアは、公開された訃報や公的な相続記録を基にして推計していて、こうした記録を基にして推計したものが6万6000人から8万8000人という数値だというわけである。(推計の際に使われた技術的なことは紹介されていない)同独立系メディアは1週間ごとに集計していて、それをグラフにしたものがグラフ2⃣である。これによって、ロシアによる侵攻から急速に戦死者が増加し、さらに、ウクライナの反転攻勢が始まってから再び急増している様子がみてとれる。


さらに、戦死した兵士および武装した人間がどのような立場にあったのかが、グラフの3⃣によって読み取ることができる。左からロシア正規軍、刑務所収容者、動員兵、義勇兵民間軍事会社、そして不明の順になっている。おどろくのは正規軍より刑務所収容者と義勇兵民間軍事会社の合計が多いことで、これまでプーチンがこの戦争を「作戦」と呼んできたスタンスが見えてくるだろう。これからは動員兵つまり退役や待機の軍人の現役復帰も増えるのではないだろうか。


ロシアの戦死者を年齢別に見ていくと、少なくとも2つの特徴が浮かび上がる(グラフ4⃣)。ひとつは35歳から39歳の戦死者が絶対数として多いこと。もうひとつが、25歳から29歳の男性のパーセンテージが高いことである。「このデータが示しているのは、ウクライナ侵攻が始まって以降、20歳以上50歳未満のロシアの男性は1%以上が戦死しているか重症を負ったということである」。


ロシアがかかわった他の戦争と比べた場合、今回のウクライナ戦争での戦死がどれほど多いかは5⃣のグラフで一目瞭然だろう。惨殺を行ったとされるチェチェン戦争やソ連が崩壊するきっかけとなったアフガン戦争での戦死者に比べていかに多いかを、改めて突き付けられる。このグラフのデータはロシアに限定されていて、ウクライナ側の戦死者を推計することはできない。

アメリカの高官はウクライナの2022年からの戦死者は7万人に達していると語っているが、これもさまざまな説がある(もし、この高官が前出の人物と同じだとすれば、ロシアの死者12万人、ウクライナ7万人ということになる)。また、ウクライナの一般市民の死者は1万人を超えているとされているといわれるが、この数値もひかえめなものとの説があるので、合計ではかなりの数値に達するだろうとジ・エコノミストは述べている。「一連のデータはロシアのウクライナ侵攻がいかに大きな犠牲を生み出したかを垣間見せる。プーチンは敵のものであれ自国の兵士のものであれ、自らの手についた血を見ても動じないようである」。