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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプは何をミスったのか;民主党系の検事たちがここまで愚劣とは思わなかった

ずばり言ってトランプはどうなるのか? おそらく、アメリカ大統領に返り咲く。それはなぜか。米民主党系の法律家たちが、馬鹿な小細工をしたからだ。軽犯罪の範疇のものを無理やり重罪に仕立て上げ、ほとんどが民主党支持の陪審員に「有罪」といわせた疑惑が濃厚である。これは陰謀説でもなんでもない、政治的になった法律家たちが支配する国の、たんなるひとつのエピソードである。そのことで、むしろトランプ陣営には裕福な支持者から選挙資金が流れ込み、貧しい支持者たちもさらにトランプへの熱狂の度を高めている。

法制度を用いた選挙妨害だとトランプ陣営は主張。

しかし、本当はほくそえんでいるのではないだろうか


世界中の非アメリカ民主党支持のメディアの多くは、今回トランプに下された評決があまりにも不自然なものだと報じている。熱狂的な民主党支持の検察が担当し、民主党の勢力が圧倒的な地域で、民主党支持が多い住民から陪審員を募って裁判をすれば、こういうこともできるという見本のようなものだ。もちろん私はトランプが立派な人物と思ったことは一度もない。しかし、これはひどい話だ。では、その結果として何が起こるのか。

「今回の評決がトランプに与えるダメージは限定的なものであり、他のことと同じように彼がこの事態も乗り切るだろうと考える理由は3つある。第一に、重罪とはいうものの、きわめて低いレベルのものだということである。検察側は今回のケースを裁判詐欺のひとつだと述べているが、それはあまりに大げさな言い方だ。実際には、トランプ・オーガニゼーションの内部に保管されていた偽造文書に関するもので、外部の者は誰も騙されていない」(ジ・エコノミスト5月30日付)


「第二に、問題になっている行為は、検察側の証人であるコーエンが元上司と決裂した6年前に公にされたもので、今回の裁判では、何らかの新しい事実は出てこなかった。第三に、裁判において担当の検察官ブラッグは、あまりにも捻じ曲げられた法理論を採用しており、まともな人間なら、この民主党から選ばれた検察官は訴訟を起こすことで、党派的なお遊びをやっているというだろう」(同)これではテレビドラマに出てくる、勝つために手段を選ばない悪徳法律事務所さながらではないのか。

こうした論調は、ジ・エコノミストが米共和党寄りだからでも、また、トランプの信奉者だからでもない。たとえば、BBC電子版5月31日付の「なぜトランプは無罪を勝ち取れなかったのか」においても、ボストン大学のジェド・シュガーマン教授が「検察の勝利は突き詰めれば、リベラル寄りの司法管区で裁判を起こしたことと、(検察にとって)有利な陪審員を選んだことだ」という。つまり、トランプ陣営は裁判する場所を間違ったのだ。あるいは、不利な場所であることを十分理解していなかったのである。


それではアメリカ国民はどう考えているのか。前出ジ・エコノミストが掲げているグラフ(上図)を見てみよう。この裁判で有罪になったらトランプにどんなことが起こると思うかとの質問に対して、バイデン支持者のなかで「ひじょうに、あるいはかなりポジティブなことが起こる」と答えているのは10%弱、「なんにも起こらない、あるいは分からない」が40%強、「ひじょうに、あるいはかなりネガティヴなことが起こる」が50%。これに対して、トランプ支持者は35%がポジティブ、怒らない/分からないが45%強、ネガティヴが20%弱で、それぞれの政治的立場をそのまま表明していることが明らかだ。

では、アメリカの法制度を考慮した場合に、何が予想されるかといえば、同記事の最後の部分を読めばほとんど全部が理解できる。「トランプの控訴はおそらく結論が出るまで何年もかかるだろう。法理論の複雑さを考慮すると(つまり検事側があまりにトリッキーな理屈を使ったので)、判決が覆る可能性は十分にある」「もし有罪になっても懲役刑にはならない」「他の3件の刑事訴訟は今年11月(つまり選挙)以前には行われる見込みがない」。


そして、たとえこの「ポルノ女優への賄賂」の件が有罪になっても(本来、経費の偽造という軽犯罪なのだが)、11月に大統領選に勝てば(いま選挙すれば勝つといわれる)、さまざまな大統領の特権を使って、法的責任を免れることができるといわれている。こんどはさすがにトランプの弁護団も、マンハッタン地区など、民主党系の法律家が大勢を占め、陪審員民主党系で固められる危険がある地域で裁判をやることを、唯唯諾諾と認めようとは思っていないだろう。


【追記:6月4日】その後の経緯は、ますますトランプに有利に働いているように見える。添付しておいたグラフは5月25日~28日調査のものだったが、5月30日~31日調査のものになると、項目が「トランプ支持」から「共和党支持」になって、微妙に異なるわけだが。ここに追加したグラフ(上)で興味深いのは、「民主党支持」の人たちのなかの、トランプにとってネガティブと見る人がかなり減ってしまい、「共和党支持」の人たちがますますトランプ支持を強く固めていることだ。そもそも、怪しげな訴訟で民主党の支配を強化しようとした、民主党系検事の行為があまりにも愚劣だったのである。ゆえに、タイトルも2字分修正しておいた。