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東谷暁による「事件」に対する解釈論

イランによる報復は次の引き金を引く;イスラエルが行う再報復は何が標的になるのか

イランによるイスラエルに対する報復は何を引き起こすのか。それはもちろんイランとイスラエルとの全面戦争である。それでは、その先にあるものは何か。今回の報復がかなり本格的なものだったことで、中東情勢は一気にいままでと異なる状況に突入してしまった。これまでは、手の内を明かしながらの攻撃だったが、今回のイランの攻撃についてはどうもそうではない。そしてそれを防御したイスラエルに、全面的にアメリカがサポートしていた。


約180発といわれるイランのミサイルについて、比較的細かい情報を掲載していたのは英経済紙フィナンシャル・タイムズ10月2日付の「軍事ブリーフィング」だった。「イランが火曜夜にイスラエルに向けた発射した約180発のミサイルの大半は、同地域で米海軍の駆逐艦の緊密に連携して活動していた、イスラエルの防空部隊によって迎撃された。イスラエル軍によれば、現地時間で午後7時31分に始まった攻撃による被害状況は、いまも調査が続いているが、数発の着弾があったにもかかわらず死傷者は出ていないという」

ft.comより:イランの弾道ミサイルの攻撃範囲


いっぽう、イラク側の発表はどうか。「イラン革命防衛隊は、先週ベイルートヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師と革命防衛軍の上級司令官が暗殺されたことへの報復として、『数十発の弾道ミサイル』を発射したと発表した。同防衛隊によれば、今回の攻撃は、さる7月にイランで殺害されたハマスの指導者イスマイル・ハニヤの報復も含まれているという。防衛隊は、発射されたミサイルの90%が標的に命中したと主張している」。なぜ、イランがミサイルの数を少なくしているのかは、特に書いていない。


いずれにせよ、180発のミサイルがかなりの程度撃墜されたことは確かだろう。イスラエルの誇るミサイル迎撃システム「アイアンドーム」があり、しかもアメリカ軍が全面的に支援していたのだ。米駆逐艦は12発の迎撃ミサイルを発射したと発表しているが、情報の提供はかなりのものだったと推測される。しかし、大半を迎撃したというのは本当だろうか。メディアが流しているビデオでは、いくつものミサイルと思しきオレンジ色の航跡が、いくつも地上にたどり着いて破裂している。大半が迎撃されたとすれば、これらの破裂ミサイルのほとんどすべては、撃墜されてただ単に墜落したものだったことになる。

ft.comより:イスラエル南部の町にできたミサイルによるクレーター


いっぽう、イラン革命防衛隊が発表した90%が標的に命中したという主張は、ほとんど信じることができない。それはイスラエル側の発表が比較的冷静であることからも推測できるし、イスラエルの「アイアンドーム」も、アメリカの駆逐艦のミサイル迎撃システムも、ほとんど機能しなかったことになり、これは信じられない。しかも、これまでの経緯を考えても、イランの放ったミサイルがターゲットに命中したというデータはないのだ。これは敢えて命中させないようにしたとの説もあるが、いずれにせよ今回のイランの姿勢は以前と決定的に異なっていた。


前回4月の攻撃でイランは、ドローン約170機、巡航ミサイル30発、弾道ミサイル120発を発射した。イスラエル軍の発表によれば、その99%が迎撃され、国内に着弾したのはわずか数発の弾道ミサイルで被害が少なかった。しかし、これは納得のいくもので、アイアンドームや米駆逐艦の迎撃もあったにせよ、そもそもイランは予告してから攻撃を開始している。しかし、今回は予告がなかった。つまり、可能なかぎりイスラエルの被害を拡大することが意図されていた。これがただちにイラクイスラエル全面戦争の開始だとは言えないし、また、イラク核兵器使用を云々するのは、まだ核開発が途中なのだから意味がないだろう。しかし、イランとイスラエルの戦いが、そして中東地域の紛争が、新しい段階に入ったことは間違いない。


おそらく、ネタニヤフ首相も宣言したように、これからイスラエル側からの報復が始まる。そのなかには開発途上の核施設の破壊も含まれているのではないだろうか。イスラエルにしてみれば、これはこれまでも機会をうかがっていた重要なテーマであり、かつてイラクの核施設を戦闘機で急襲して破壊した例を思い出させる。そこまで踏み込む可能性は十分にあるだろう。その意味ではイランの核について注目すべきだろう。アメリカは協力こそしないが、その破壊作戦に気が付いても、やめさせようとはしないだろう。いまやイランとイスラエルだけの戦争ではなくなっている。イスラエルの背後にはすでにアメリカが存在感を示し、イラクの背後には中国とロシアが控えている。