HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

イスラエル軍はレバノン侵攻を開始した;なぜヒズボラは指導者の暗殺を阻止できなかったのか

イスラエル軍は、「限定的」とは付いているものの、レバノンへの地上戦を開始した。報道を聞いている限りでは、レバノンヒズボラ勢力は、ガザ地区ハマスなどとは比べものにならないほどの「脅威」だということになっていたが、どうも違うようだ。すでにイスラエル軍空爆によって、ヒズボラの指導者であるハッサン・ナスララ師を暗殺しており、今度の地上戦も、ヒズボラ側には十分に抵抗する軍事力はないと見たほうがよい。


まず、いま何が起こっているのかを確認してみたい。英経済紙フィナンシャル・タイムズ10月1日付の「イスラエルレバノンヒズボラに対して『限定的』な地上戦を開始」を読んで見よう。「イスラエル軍の短い発表によれば、同軍はヒズボラに対して、レバノン南部の国境地帯で『限定的で、地域的、かつ目的が明確な地上戦』を開始したと発表、同作戦は砲兵隊と空軍によって支援されていると付け加えた」。

刻々と新しい情報が入ってくるものと思われるが、これはイスラエル軍によるハマス戦の延長線上にあり、ガザ地区への攻撃がほぼ終わっていることから、背後からミサイル攻撃していたレバノンヒズボラに対抗するため、兵力を急激に移動させているということだろう。まず、空爆によってヒズボラ指導者を殺害したが、これはイランでのハマス指導者殺害と同様、すでにスパイ活動によって目標の位置は分かっていたと思われ、今回の爆撃はそれを実際に確認するだけのことだった。


この爆撃については、すでにこのナスララ師暗殺の時点で、ヒズボラの諜報力を含めた軍事力が、これまで報道されていたものよりかなり低いのではないかとの推測が生まれている。たとえば、米紙ワシントン・ポスト9月29日付に「ナスララ暗殺はヒズボラの軍事力についての幻想を破壊」との記事が掲載されている。この記事に登場するロンドン・チャタム・ハウス研究所員であるリナ・カビットによれば「ヒズボラはその力量がかなり過大評価され、同時に、ヒズボライスラエル諜報部員がどこまで自らの組織に入り込んでいるかについては、過小評価していたのではないか」と指摘している。さらに、カビットは次のようにも述べている。

ヒズボラは自分たちが作り上げた(過大な)イメージに漬かっていることで、自分たちの評価を過大なものにしていたのではないか。おそらくヒズボラはこれからも戦うことになり、他に強力な対抗勢力のないレバノンでは、政治および軍事両面での主導権を持ち続けるだろう。しかし、その存在感と声望はもはやかつてのような状態には戻らないだろう。ナスララ暗殺は何十年も我々が見てきたヒズボラの終わりの始まりとなる」


もし、ヒズボラの脅威がこの程度であることが明らかになったのであれば、イスラエル軍は急いでガザ地区掃討と同じように、多くの死傷者を出すことになる地上戦へと突き進まなくててもいいのではないかと思ってしまう。しかし、まずネタニヤフ首相はいまの戦争をやめるわけにはいかない。平時ならば自分が監獄に送られる危険があり、非常事態宣言を有効にするためにも、この悲惨な戦争を続けねばならない。また、アメリカのバイデン首相はイスラエルレバノン侵攻をとどまるようにいったということになっているが、その本音は、これまでの親イスラエル姿勢に見られるように、戦争継続もアリなのではないのか。

すでにハーバード大学ティーヴン・ウォルト教授が指摘していたように、アメリカにイスラエルガザ地区攻撃をやめさせることができないわけではなかったが、結果として、やめさせる圧力をかけてはいない。「ワシントンは潜在的なテコはもっていたし、その使用も不可能ではなかった。しかし、イスラエルのリーダーは目の前の問題について必死だったので、アメリカの支援を減らすと脅すくらいでは、大きな路線変更を促すことはできなかった」(フォーリン・ポリシー3月21号)。


では、いま進んでいる大統領選挙の結果によっては何かが変わるのだろうか。これもあまり期待できない。トランプが大統領になればイスラエルへの支援は多くなっても少なくなることはない。そして、ハリスが当選すれば選挙中の発言どおり「イスラエルは自国を防衛する権利がある」のだから、ハマスヒズボライスラエルを滅亡させるために攻撃してくる限り、それに見合う反撃をやめさせることはないだろう。結局、イスラエルの戦時国家化はさらに強化され、その兵力と経済力が続くかぎり(これらはアメリカが援助するだろう)、イランを中心とする反対勢力に対抗し、そして攻撃することになる。