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東谷暁による「事件」に対する解釈論

効果的な睡眠時間の調整法;暗闇ホルモンといわれるメラトニンの正しい飲み方

睡眠が不規則な人や海外に出かけて仕事をするビジネスパーソンは、睡眠障害に陥ることが多い。そうでなくともジェット・ラグ(時差ぼけ)で苦しむ人は、常時睡眠の調整に余念がない。そのための薬としてメラトニンを使うことが多くなっているが、実際に使った人の感想では、うまくいった人もいればほとんど効果のなかった人もいる。なぜ、そんなことが起こるのか。正確に知って、なるだけ有効に使うことを考えよう。


経済誌ジ・エコノミスト1月9日付は「メラトニンは本当に効くのか」と題した小文を掲載している。小文ながらメラトニンが効いたり効かなかったりする理由のひとつを簡潔に説明してくれているので、睡眠時間帯が変動する人や海外で仕事をする人に役にたつかもしれない。最初に結論の部分を紹介してしまうと、メラトニンの効果は「体内時計を早める」ことはできても「遅くすることはできない」ということなのだ。

その結論に至るまでの同誌の興味深い話も紹介しておこう。メラトニンは「暗闇ホルモン」とも呼ばれるように、太陽が沈むと脳の松果腺から分泌される物質で、脳内での生成は真夜中にピークに達し、朝の光がもどってくると徐々に減少するという。実は暗闇そのものではなく体内時計によって決まるのだが、人間の体が光の出現と消失が体内時計を調整して、メラニンの生成と昼夜サイクルとを同期させているのである。


この分泌のサイクルは、人間が生活している環境が変われば影響を受けるわけで、その生成が阻害されて睡眠障害を起こすこともあり、また、ジェット・ラグ(時差ぼけ)によってメラトニンの生成に乱れが生じることは多い。後者の場合、昼夜のサイクルがずれるため生じる現象だが、いつかは移動先の環境に体のほうが合わせていく。ただし、この合わせていく時間には個人差があるため、ジェット・ラグに弱い人がいるわけである。

では、人工的に作られたメラトニンを摂取すれば、睡眠障害やジェット・ラグによる不調を解消できるのだろうか。つまり、各種のメラトニン剤は本当に効くのだろうか。これまでのプラセボ(偽薬)を使った実験では、偽薬ではなく本物のメラトニンを摂取したほうが、かなりの高い割合(時差ぼけの症状を0から100の程度に分類して評価する方法で、ほぼ半分の数値が出た)で効いたことが分かっているという。


さて、使用法上の注意として決定的なのが冒頭の結論で、これはサリー睡眠研究所センターのデルク・ジャン・ダイク所長が次のように発言している。「体内時計を早めたい場合にはメラトニンは効果的です。しかし、体内時計を遅らせる効果はありません」。つまり、メラトニンの接種は、西に向かう飛行機に乗りこむさいに、起きていなければならないときよりも、東に向かう飛行機のなかで、体が望むよりも早く寝なければならないときに有効かもしれないというわけである。もちろん、同誌は西に向かう人にもヒントをくれている。

「西に向かう人にも体内時計を調整する他の方法がある。たとえば、フライトの数日前から徐々に睡眠と覚醒のサイクルをずらしたり、目的地で日中に自然光を浴びたり運動したりして、メラトニンの生成を調整するわけである」

こういうことは、実は、すでに多くの人が試みている。わたしも、朝ごはんの美味しいホテルに泊まるさいには、いつもより1時間くらい早く起きることになる。しかし、いきなりはできないので、数日前から少しずつ早くして調整を行う。この記事が有難いのは、100%完全に効くとはいわないが、メラトニンを使うさいのかなり有効なヒントが、ちゃんと入っていることだろう。