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東谷暁による「事件」に対する解釈論

英国のコロナ感染急増が鎮静化しない;ワクチン3回接種と規制復活で乗り切れるか

英国での新型コロナ感染再拡大については、すでにニュースでも目にしていることだろうが、10月20日には4万9139人の感染者が確認されたから、同国政府の焦りもはなはだしいものがある。先日行われたサジド・ジャヴィド保健相のブリーフィングでは、1日のコロナ感染が10万人に達することもありうると、国民に向かって強く警告した。

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いっせいに同国のジャーナリズムはこのブリーフィングの内容を伝えたが、まず、ザ・タイムズ10月21日付から見てみよう。ジャヴィド保健相はすぐに規制を復活させることには否定的で「私たちは、いまNHS(公的保健医療制度)が直面している感染による圧力は、耐えられないものだとは信じていない」と述べてはいる。

しかし、そのいっぽうで「プランB」の可能性についても語っていた。このプランBとは、ジョンソン首相がコロナに関する規制を全面解除するさいに触れた規制のことで、「マスクをかける」「ソーシャルディスタンスをとる」「ワクチンパスポートを義務化する」「テレワークを続ける」などからなっていて、以前の規制よりも厳しいものだ。

結局、ジャヴィド保健相がいいたいことは「3回目のコロナワクチンを推進すること。まだ、接種していない人は手続きを簡便化するので接種してほしい。そうしなければ、このプランBを採用しなければならない」というものだった。こうしたブリーフィングに対しては、もちろん野党からの「当面の具体性を欠いている」との批判があったが、マスコミからも疑問が提示された。

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まず、BBCニュース10月20日付では、政治エディターのローラ・ケッセンバーグが、「もう状況は12カ月前とは異なっていることを思い出す必要がある」と述べて、「政府がいちばん怖がっているのは、去年の秋の繰り返しとなる『政府のコロナ禍対策はこんどもあまりに遅かった』といわれることだ」と指摘し、国民の生命や健康の危機よりも、自分たちの立場失墜を恐れる政治家たちを批判している。

また、ザ・テレグラフ紙などは、もうこの「プランB」では済まないのではないかと予測して、「プランC」が出てくると断言している。「弊紙はすでに当局がもっと厳しいプランを検討していることをつきとめている。そのプランには、もし病院への負荷がもっと高まるようなら、お互いの家を訪問し合うのを禁止する規制が復活する」などと書いている。これはロックダウンということだろう。

たとえ1日の感染者数が10万人に達することはないとしても、いまの感染者数のレベルが続くようなら、ワクチンの3回目接種を推進するだけでなく、ザ・テレグラフ紙が予想している「プランC」を実行しなくてはならなくなる。そこまで行く前に、まずはワクチンを最大限に使おうというのが、政府の現時点での方策であるように思われる。

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こうした事態は、地球の裏側のコロナ対策に失敗した国のことだと思えればいいのだが、1日の感染者が2万人を超える事態を経験した日本としても、けっして他人事ではない。ことに、この感染者急増が何故始まったのかについてすら、「五輪のせいだ」「いや五輪は関係ない」と、まだ議論に決着がついていない。

さらに恐ろしいことに、この急激な感染拡大がなぜいまのような状態まで鎮静化したのかも、実は、よく分かっていないのだ。その意味では、ワクチンにひたすら依存して、どうにかここまで来たという点では日本も同じようなもので、まだ安心できない。次のようなジャヴィド保健相の英国民への訴えは、日本人も聞き流すわけにはいかない。

「もし、インターネットやその他のメディアで読んで得た、ワクチンに関するいくつもの怪しげな見解にとりつかれている国民がいるならば、それを正しい方向に変えるようなことも、しなくてはならないだろう」

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いまのところ日本でも、これまでも登場した怪しげなワクチンに関する見解や、ウイルスについてのデタラメな説はけっこう多く、いいかげんな記事や新書が雨後のタケノコのように出たが、どうにか現実の医療に及ぶのを阻止してきたといってよい。しかし、それも日本の状況が他の国に比べればまだましだからにほかならない。再び今年8月から9月のような状況が始まれば、怪しげで危険な説がさらに勢いをますことになる。

【追記】ロイター10月21日配信によれば、21日に確認されたコロナ感染者が5万2009人だった。7月17日以降最多となった。ジョンソン首相はいまの政府の姿勢を変える気がないとしており、また、ジャヴィド保健相もワクチン戦略で切り抜ける旨の発言を繰り返しているが、いまの傾向が続けば英国は再び政策の変更をよぎなくされるだろう。

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