HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

ワクチン副反応研究の最前線からの報告;原因は「ドラゴンが目覚めた」だって?

アストラゼネカ製ワクチンなど、ベクター型のコロナ・ワクチンを打つと、なぜ重度の血栓症が引き起こされるのか。もちろん、いくつかの研究がすでに行われている。最近、ドイツで報道された研究のひとつは、ワクチンに含まれているプロテインの一種が、血球のなかに入り込んで、副反応を生み出す炎症反応を引き起こすのではないかというものだ。

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 独紙フランクフルター・アルゲマイネ4月23日付は「なんと、あの竜が目を覚ます」との記事を掲載して、最新のアストラゼネカ製ワクチンが引き起こす脳内静脈洞血栓研究の最前線を紹介している。この「竜」とはほかでもない人体の免疫反応そのものである。この説が最終的な到達点だというわけではないが、研究が進めば血栓症の原因が分かり、その結果として対処法が考案され、ワクチンの接種がずっと安心してできるようになる。

 このリアルタイムの医学ドキュメントの中心的な登場人物は3人ほどいるが、まず1人目が血液学者のザビーネ・アイヒンガーだ。彼女は2月末に腹部に重い血栓症を起こした患者を担当することになった。49歳の看護師だったが、なすすべもなく亡くなってしまう。しかし、症状については細かに記録することができた。

 この看護師は、奇妙なことに、血栓症なのに血小板の減少がみられた。「一般の人は血小板の減少と血栓症はふつうはまったく逆の症状だと思うでしょう」。この症状は血液凝固を防ぐためにヘパリンを投与したとき現れることは知られていた。血栓症にならないように投与した薬品が、血小板減少症をともなう血栓症を生み出す現象で、「ヘパリン投与による血栓症(HIT)」と呼ばれている。亡くなった看護師はヘパリンは投与していなかったが、アストラゼネカ製ワクチンを投与していた。

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アイヒンガーは、この分野の権威であるグライフスヴァルト研究所のアンドレアス・グライナッヒャーに連絡をとった。彼とそのチームは短期間に集中的な探究を行い、中間報告として医学誌『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に「ワクチンが引き起こす血栓性血小板減少症(VITT)」についての論文を掲載した。これは話題になり、すでにこのブログでも紹介しておいた。

 グライナッヒャーたちは、この論文のなかで、HIVの症状を生み出す現象に基づいて、血小板を形成している分子(PF4)に攻撃を加える抗体に目をつけて、これが重篤血栓症を起こしたのではないかと仮説を立てている。さらに、まだ査読をへていない研究のなかでは、血球をより透過性のあるものにするEDTA(エチレンジアミン四酢酸)の働きに注目しているという。このEDTAの働きによって、体外から接種されたプロテインが血球の中に入り込み、その結果、血球の炎症反応を生み出して血栓症を引き起こしたのではないかという、さらに精密な仮説を立てている。

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FAZ.comより:赤色が赤血球。桃色が血小板。


 「そして希なケースで、この炎症反応が抗体複合体と一緒になって、「竜」を目覚めさせたとグライナッヒャーは言う。『ワクチンの投与は、竜の棲む洞窟に入っていって、竜に向かって石を投げたようなものなんですよ』」

 フィラデルフィア小児病院の血液学者モーティマー・ポンツは、この仮説は「興味深く、十分にあり得る」としながらも、「まだ多くの問題が残っている」と指摘している。「グライナッヒャーはもともとの防御メカニズムは眠れる竜だといっています。では、なんで竜が起きるのは、アストラゼネカ製ワクチンを打った人なんでしょうか」。HITの場合にはあくまでヘパリンを投与したときだが、アストラゼネカ製ワクチンの場合はヘパリンを投与しなくとも起こっている。「また、EDTAは他のワクチンにも含まれているんです」。

 まだ多くの問題はあるにしても、最前線で副反応をめぐる研究と論争が続いていることは間違いない。そして、その成果がもたらされる時期は、おそらく天に任せるしかないのかもしれない。その時期が、今年の9月以前であることを願うのは、あまりに楽観的だろうか。

 このブログで繰り返しアストラゼネカ製ワクチンをめぐる抗争を取り上げていることを、奇妙に思う人がいるかもしれない。「日本はすでにファイザー社と契約ができているわけだから、危険なアストラゼネカ社製なんか関係ないじゃないか」と。しかし、いまの菅政権が自ら「契約した」といっているのは、わが国の首相が「要請」して、ファイザー社が「検討する」と答えたにすぎない。そしてまた、たとえ「事実上の合意」があったとしても、売る側が圧倒的に強いワクチン市場においては、合意が守られない可能性は高い。

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このブログで繰り返しアストラゼネカ製ワクチンについて取り上げてきたのは、ワクチン戦争がかなり熾烈なものであることを忘れないようにするためと、もうひとつ、このままだと、日本はアストラゼネカ製ワクチンで切り抜ける局面が来るのではないかと思っているからでもある。我が国の高齢者の一部はファイザー社製を接種できずに、いまより激しい感染拡大に直面するかもしれない。そうなったとき、手に入りやすいのはベクター型のワクチンということになる。それすら不可能になり、同じベクター型でも怪しげな、ロシア製や中国製に頼ることになってしまうかもしれない。

 すでに、アメリカは英国アストラゼネカ社のワクチンの認可を見送り、国内のアストラゼネカ製ワクチンを海外に放出することを決めた(4月27日の報道)。ファウチの言い方では「アストラゼネカ製はアメリカは要らない」からである。そして、同じベクター型の米ジョンソン&ジョンソン社製ワクチンは認可し奨励している。これはワクチン生産国の余裕であると同時に、自国民への「バイ・アメリカン」政策のアピールでもある。しかし、「ワクチン後進国」と言われる日本は、今回のワクチン戦争においてすでに敗者といってよい。