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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ゲームストップ株の異常な乱高下;その背後にあるものは何なのか

ゲームショップ・チェーン「ゲームストップ」の株価が乱高下して話題になっている。ロイターによれば、同25日に始まる週になってからだけで、なんと360%以上値上がりした。ところが28日には急落して、日本円にして約1兆1500億円が消滅した。ニューヨークの株価がバブルなのは分かっているが、これはいくらなんでも「異常」というべきだろう。いったい何が起こっていたのか。

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この異常事態については、たとえば日本経済新聞1月28日夕刊も「ウォール街ラウンドアップ」で伝えていて、個人の投機的な行動が目立っており、「ゲーム専門店ゲームストップ株などSNS(交流サイト)で話題の特定銘柄に売買が集中し、主要インターネット証券ではシステム障害が相次いだ」という。

 同記事の説明によれば、ヘッジファンドがゲームストップ株を空売りしていたのに対して、個人投資家たちがSNSを通じて一致団結して、デリバティブコールオプション(買う権利)を買っていった。その結果、株価が上昇したために、空売りで儲けようとしていたヘッジファンド勢が、買い戻しせざるを得なくなった。損失もかなりのものだったといわれる。

 コロナ対策の金融緩和や補助金で「資金」を手にしている個人投資家たちが、SNSという新しい媒体によって団結し、デリバティブを武器にして自分たちの目指す方向に、金融市場を動かしているわけで、いかにも今の状況を如実に表しているといえる。とはいえ、こうした動きが常態になれば、金融市場そのものがうまく機能しなくなるかもしれない。

 この異常な状態がいかにして生まれたかについて、英経済誌ジ・エコノミスト1月27日号は、「グラフィック・ディテール」のページで、短いがかなり突っ込んだ分析をしている。日経ではSNSということになっているが、これはReddit(レディット)という投稿サイトのサブサイトr/wallstreetbetsであり、いま300万人の登録者がいるという。

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ゲームストップというチェーンは全米に約4000の店舗を持つゲーム販売会社だったが、コロナ禍のあおりをうけて閉じる店舗も多くなっていた。ところが、昨年8月、オンライン・ペットフード販売会社の経営者だったライアン・コーヘンが有力株主となったことから変化が生まれる。11月、コーヘンは経営陣に対して、オンライン・セールを展開するべきだとする提案書を送ったことから、この企業の評価が急速に高まったらしい。

 「今年の1月27日にはゲームストップの株価が17倍に跳ね上がり、350ドル以上になった。企業価値は昨年は2億5000万ドルにすぎなかったが、いまや市場価値は250億ドルを超えてしまった」

 こんな奇跡のようなことが起こったのは、さまざまな要因があったと思われるが、ジ・エコノミストは、少なくとも4つの要因が考えられるという。まず、リテイル投資家(小口投資家)の規模が巨大だという事実である。前述のようにレディットのサブサイトに登録者が数百万人もいる。リテイル投資家の取引額は、10年前は株式売買全体の10の1だったが、いまや5分の1にまで成長している。

 また、リテイル投資家たちは、今回の事態に見られるように、単純な株式投資をやっているのではなくて、コールオプションを買うなどの、かなり高度なデリバティブを用いるようになった。これは危険ではあるが、短期的にはきわめて効果的な方法なのである。デリバティブを売ったトレーダーは、「株価が上がるにつれて、自らのポジションをヘッジするため、その株式を買うことになる」。その結果、株価はスパイラル的に上昇する。

 さらに、機関投資家空売りの巨大な利益を狙ったことだ。彼らは空売りのポジションをとったことで、株価が上がるにつれて、損失が膨らむリスクを回避するため、ゲームストップ株を買い戻すことを余儀なくされた。たとえば、メルヴィン・キャピタルやシトロン・リサーチはこの競り合いから降りてしまった。

 加えて、これがもっとも大きかったとジ・エコノミストは述べているが、このリテイル投資家たちの株価つり上げが成功した理由は、おそらくはこの動向が大々的に注目されたことだという。25日に始まる週にはあらゆるマスコミが取り上げ、ついにはホワイトハウスが「注視」するところまでいった。しかも、このさいの問題とされたのは、ヘッジファンドなどの借り入れによるレバレッジが危険水域まで来ているという点だった。

 しかし、「28日の米株式市場で、ビデオゲーム小売りチェーン大手ゲームストップの株価が急落し時価総額は110億ドル近く吹き飛んだ。……ただ、時間外取引では、取引を中止していたネット取引サイトのロビンフッドが、一部銘柄について29日から限定的に購入を認める計画だと発表したのを手掛かりに急反発。ゲームストップ株は一時46%上昇」(ブルームバーグ1月29日付)

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このゲームストップ株の驚くべき乱高下は、さまざまに解釈されている。これはまさにデイトレイダーたちによる、怪しからん反乱だと怒っている金融市場エスタブリッシュメントは少なくない。いっぽう、少額の取引をささやかにやっている者たちが、傲慢なヘッジファンドに一泡吹かせてやったのだと、快哉を叫ぶコラムニストもいる。

私は、こうした株式の不自然な動きを聞くと、頭が古いせいか「仕手株」を思い浮かべてしまう。意図的に高騰することをたくらみ、特定の投資家には反転の時期を知らせておいて、無知な一般投資家をひきつけ、高騰させておいて売りに転じて利益を出すわけである。政治家や怪しげな筋が資金を調達する方法のひとつとして盛んに利用された。

 もうひとつ連想したのは、昔のジョージ・ソロスたちの手法であり、たとえばポンドに売りを浴びせて大儲けをしたわけだが、このときも同業者たちに「ソロスが売り浴びせる」ことを積極的に伝えるというのが必要不可欠だった。いかにソロスのファンドといえども、ひとつだけでは英国財務当局を相手に勝負して勝てるわけがない。大小無数の同業者が参加して初めて、彼の野望は達成されたわけである。

 今回の乱高下はまだ終わっていないが、こうした影の大物による隠れた計画というものではないらしい。(もちろん、そういう話がたくさん出てくるだろうが)しかし、今回のような要因を意図的に作り出す試みは、さらに行われていくのではないのか。いや、もうすでに頻繁に行われていて、ただ、今回は単に規模が大きくなりすぎただけのことなのかもしれない。

 

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