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東谷暁による「事件」に対する解釈論

アメリカの民兵組織のリーダーは主張する;彼らの憲法意識と革命思想

アメリカの議会を1月6日に占拠した「暴徒」たちは、いったいどのような集団から成っていたのだろうか。なかでも注目されたのが武装したグループ「誓いの番人」だが、ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙1月17日付は、占拠に参加したとみられる武装グループと、かなり近い立場にある武装グループのリーダーにインタビューしている。

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インタビューに応じたのは、「憲法保安官および平和警官連合」のリチャード・マック。彼は記者に「憲法保安官および平和警察連合」と「誓いの番人」を名乗る2つの民兵組織のリーダーなのか聞かれて、「後者とはもう三年接触していないが、前者の創始者である」ことは認めた。ただし、民兵組織(ミリーシア)と呼ばれるのは拒否し、自分たちは南北戦争で活躍したチェンバレン大佐(大学教授だったが北軍に加わり、軍事は素人だったが活躍して最後は准将になった)のいう「自由を人びとにもたらす者」という意味での軍隊(アーミー)だと主張する。

 また、FBIがバイデンの大統領就任を前に、アメリカの全州に暴力をもちいる抗議行動の兆候がみられるといっていることについては、「なぜ、FBIがそんなことを言うのか分からない。それは正しくないと思う。そもそも、私たちはもうFBIを信用していない。50州全部で抗議運動が起こることはないだろう」と語っている。

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米議会占拠に参加した「誓いの番人(Aoth Keepers)」(フランクフルター紙)


 1月6日の議会占拠については、「何といえばよいか分からない。何人かにワシントンに来てくれと言われたが、私は拒否した。感情的になっている人があまりに多かった。大勢で何かをやるというのは、(必ずしも)よい考えではない。しかし、トランプが今回の事件を望んでいたという人たちは、ほとんどクレージーだと思う」。

 トランプが大統領として行ったことについて、どう思うか聞かれると「彼は本当によい仕事をした。中国、NATO、国連、民主党共和党、そしてマスコミと戦った。オバマは口先だけだった。彼はトランプより賢い政治屋だったかもしれない。しかし、何を実際にしたかという話になれば、トランプはアメリカ史上もっともすばらしい大統領のひとりだった」。

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Aoth Keepersによる広報ビデオから


民兵組織のなかには、バイデン大統領は「脅威」となると主張しているグループがあるが、どう思うかと聞かれると「それは正しい。バイデンは増税をして、ロックダウンを繰り返し、銃規制を行うといっている。ドイツ人は知らないかもしれないが、わが国の憲法修正第2条には、武器を保持する人民の権利をみとめている」と誇らしげに語った。

 さらに、あなたの考えでは憲法修正第2条は、独裁的な連邦政府から、自分自身を守る権利があると述べているのかと聞かれると「もちろんだ。ただし、私が言っているんじゃない。自由について憂慮した憲法の起草者たちが書いた。私たちが政府に反抗しなくてはならないときには、我らの国父たちが1776年に述べたように、アメリカ国民にはその権利があることを思い出すべきだ。独立宣言には、僭主や独裁者に対して人民の権利を守るために、政府を変更あるいは廃止することができる」。

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憲法保安官と平和警察連合(CSOP)」のホームページ


もう少しインタビューは続くが、民兵組織のひとつを指導している人物の、典型的思想は浮き上がっていると思われる。ウィキペディア英文版によれば、リチャード・マックはアリゾナ州生まれで、同州のグラハム郡で保安官を務めた後、政治活動家となって、ライフル協会に勤務したこともある。銃問題がらみの政府を相手取った訴訟で勝利するなどの「業績」もあったが、前出の民兵グループ「誓いの番人」に参加していたこともあり、その後、「憲法保安官および平和警察連合」を創始している。

このインタビューでは、ところどころはぐらかしている部分もあるが、大筋は率直な意見を表明していると考えてよいだろう。こうした民兵あるいは武装グル―プが全米には多くあり、1月20日には何らかの抗議行動を実行しようと計画していることは否定できない。ただし、それらが1月6日に議会に突入したようなグループなのか、この人物のように比較的慎重なグループなのか、そして大きな組織的行動を起こすまでになっているのかは、まだ不明なことが多い。

f:id:HatsugenToday:20210117234558j:plain リチャード・マック(ウィキペディアより)

 

 すでに、このブログでは「議会占拠の人民を米国は裁けるのか;その正当性と民主主義を根本から考える」「トランプ大統領は有罪なのか;扇動をめぐる米国の論争をよむ」の2つで、トランプが扇動したとされる議会占拠と、その背景にあるアメリカの抵抗権と武装権を含んだ憲法との関係について述べている。このインタビューも、いまのアメリカを理解するため、参考にしていただければ幸いである。