ロシア経済がなかなか崩壊しない。それどころか成長すらしている。データを改竄して発表しているのではないかとの疑いはあるが、さまざまな他のデータから推測すれば、それほど奇妙なことではない。プーチンはこのまま大統領に再選するだろうし、また、その後に発表される経済データが、たとえ多少悪いものだとしても、痛くも痒くもないだろう。
「プーチンがウクライナに侵攻してから2年の間、ロシア経済は繰り返し崩壊予測を裏切ってきた。2022年の春には崩壊だとの広く流布した予測は、結局、的中することはなかった。景気後退にはなったものの、予想されたより軽度であり、しかも、継続しなかった。いまはインフレが危険とされる。昨年、急速に物価が上昇したときには、コントール不能になるとの予想もあっって、プーチンも焦ったようだ」
これは英経済誌ジ・エコノミスト5月10日号の「ロシアの経済はまたしても崩壊予測を裏切っている」の冒頭で、このあとプーチンが官僚たちに物価上昇について「特別の配慮」を要求したが、大事には至らなかったという話が続いている。そして、「またしてもロシア経済は悲観論が間違いであることになりそうである」。3月13日に発表される予定のデータによれば、2月の前月比インフレ率は0.6%、昨年末との比較では1.1%下落している。昨年11月時点では年比で7.5%上昇したが、予想では4%まで下がるとされている。
こうした経済のコントールの功績は財務省にあると同省は主張しているという。同省の高官は為替レートをコントロールしたというが、それは輸出業者に外貨をロシアの金融システム内にとどめるように強制することで行われた。この措置が数か月の間に評価されてルーブルの価値が支えられ、輸入品の価格が低下したというわけだ。いっぽう、中央銀行から見ると、中銀が金利を上昇させたのでインフレが阻止され、為替レートは上昇してロシア国民を消費よりは貯蓄へと向かわせたことになる。
いずれにせよ、ロシアは経済を崩壊させることなく、インフレは低下しており、「ソフト・ランディング」するだろうと見られている。「いまやロシア経済は、ウクライナ侵攻以前の趨勢に沿って進行している。GDPは実質で昨年の3%を超えそうである。また、失業率も低い数値に維持されそうだ」。なんだかこうなると、まるで戦争などやっていないようで、経済はガタガタになって、中国の野望への警告となるなどといっている評論家の言葉は疑わしくなる(もちろん、これは別の回路で考えておくべきことだが)。
ジ・エコノミストの分析によれば、こうした経済の好調はそれ以前からの刺激策がいま効いてきたという側面もあるという。また、労働需要の低下が、雇用数の減少よりは雇用が不十分だった分野の縮小によって調整されているという点も無視できない。加えて、ロシアにある西側諸国の製造工場が、新しいマネジメント態勢(ロシア国内の企業)によって再開していることも大きい。
鳴り物入りで実施されてきた西側の経済制裁は、モノの輸入の半分を供給し、それがウクライナ侵攻以後は2倍になった中国などの友好国によって、効果をいちじるしく低下されている。経済制裁については、ハーバード大学のスティーヴン・ウォルト教授が「他の手立てがないときに仕方なく行う制裁」だと指摘している。効果があるのは孤立した小国だけであり、ロシアのように国土の規模と友好国をもつ場合には効果は限定的である。
外貨を獲得してきた石油の輸出についても、いまのところロシアにとっては明るいデータが存在している。2022年の初期には10%のディスカウントを与儀なくされたが、ここにきてこのディスカウント幅が5%にまで低下している。「石油だけではない。プーチンは習近平の国にアイスクリームも多く輸出している」という。
もちろん、この状態がずっと続く保証は何もないが、これまでの2年の実績を見る限り、ロシア経済が急速にガタガタになってしまうという予想はますます立てにくい。また、アメリカによるウクライナへの支援が危うくなっている状況のなかで、友好国だけでなく他の国にあっても、アメリカの動向を横目で見ながら、将来的な関係を再考するところが増えてくる可能性も出てきた。出来合いの勧善懲悪で世界が動いていないことは分かっていても、いまも一部に流れるロシア経済危機報道は、いったい何なのかとあきれてしまう。
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