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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国のGDP成長率は2%まで下落?;トランプ関税の脅威の中で経済データの隠蔽・改竄は続く

中国経済はいったいどのような状況にあるのか? トランプによる関税攻勢に耐えうるのかを考える以前に、現実を測る経済データーが発表されなくなって久しい。限られたデーターから推測する方法が行われてきたが、最近では醤油の生産量すらも発表されなくなり、いまや中国は経済データーの暗黒大陸となっている。しかし、いくつかの発言や兆候からその実態を読む試みは続けられてきた。


米経済紙ウォールストリート・ジャーナル5月4日付に「中国経済がどれほど悪いか、その答えを知るためのデーターが消えている」との記事が掲載された。これまでも中国の経済データーについてはさまざまな疑問が投げかけられ、そしてその疑問を克服するための推計上の試みがなされてきた。しかし、中国政府は2022年から重要な経済データーを発表しなくなり、その後も推計する材料となるデーターすら公表を禁じている。そのいっぽうで政府は政策目標であるGDP成長率を5%と設定し、それが達成されたと発表するのである。

「中国の成長率の真実を把握するのは常に困難だった。多くのエコノミストは長らく中国のGDPデーターの信頼性に疑問を呈しており、最近になったさらに懸念が高まっている。公式統計によると、GDP成長率は昨年が5%、2023年が5.2%とされているが、中国政府はその数値を2~3%水増ししているのではないかとの見方もある」


この2~3%という見方はさまざまな推計によって根拠づけられているが、そもそも中国の首相となる人物が、その水増しを認めたことすらあった。2007年、当時、中央政治局常務委員の李克強は自分が統括していた省のデーターは「人為によってつくられたもの」であり信頼できないと述べたことが、漏洩したアメリカの外交電報で明らかになった。このときの漏洩電報によれば、李は電力消費量、鉄道貨物輸送量、新規銀行融資などで自分は判断していると述べたという。

2024年、中国政府は経済成長率を目標と同じ5%と発表したが、まともな専門家たちに信じる者はなく、なかには「当局がもっと低い数値を発表していれば、もっと信頼性があったのに」とウォールストリート紙にコメントしている。中国政府の発表するGDPの数値は、さまざまな推計によって批判されてきたが、景気がよい時期にはさまざまな調査会社が発表する数値の中間値と近くなったので、中国政府の発表は正しいのではないかと思われた。しかし、このところの数値は調査会社の推計から逸脱するようになっている。


同年12月、中国の国有企業であるSDI証券のエコノミスト高山文は、ワシントンで開かれたコンファレンスで「ここ数年の中国の経済成長は2%前後かもしれない」と述べ「中国の実際の成長率の数値は分からない」と述べてしまった。すぐに習近平は高を懲戒免職にして発言を禁じた。さらに中国証券協会は、証券会社にたいしてエコノミストは「積極的な役割」を果たすことに徹底するように警告したという。

こうした事件が起こっても、投資家たちは「本当の数値」を知りたいわけで、たとえばゴールドマン・サックスは、中国側と相手国側の貿易データーを付き合わせることで本当に数値に迫る方法を開発し、今年2月には2024年の中国の本当のGDP成長率は3.7%と推計している。さまざまな手法を使ってGDPを割り出す方法はかなり普及しているが、データーの収集方法や数値の解釈が入るので推計には多少の差が生まれる。たとえば、ニューヨークにある調査会社ロジウム・グループは別の方法を用いて2024年の成長率は2.4%と推計している。


中国における経済データーの事件で注目されたものに、若者たちの失業率を発表した北京大学の経済学者である張丹丹の「失業率46.5%」の公表停止措置がある。2023年、公式の若年失業率(16歳~24歳)が21.3%を記録したさい、彼女が「中国の本当の若年失業者は46.5%に達する可能性がある」と発言したため、世界中が注目した。ただちに当局は同年8月に数字の算出法を見直す必要があるとして、若年失業率の発表そのものを停止し、5カ月後に14.9%だったという発表を行っている。


政治的に政府の責任を追及する材料となるコロナ禍に関するデーターなどは、ほとんど真実と思えないものが多かったが、「ゼロコロナ政策」を無理やり終了させたときにどうなったかについては、周辺のデーターを含めて徹底的に公表を封じた。「中国は、2022年末にゼロコロナ政策を放棄した後には、火葬データーの公表を停止した。この政策放棄は、一部のアナリストが130万人から210万人がコロナで亡くなったと推定していた」。

こうした経済データー公表の禁止、隠蔽、改竄は続いていたが、ついには冒頭に述べたように国民の生活レベルが推測できる(と思われる)醤油の生産量も発表が禁止されるようになった。この記事の締めくくりは次のとおり。「消失した情報のなかには、ちょっと説明がつかないものもある。たとえば、小学校のトイレの規模を推定するデーターは2022年に公表が停止されたが、2月には再開された。しかし、醤油の公式生産量は2021年に公表が停止されたが、その後も復活していない」。


そもそも経済データーが公表されていないなかで、トランプの関税政策が中国にどれほどの影響を与えるかを論じるのはかなり困難が伴うだろう。しかし、SNSに流れるアメリカの関税を逃れるノウハウを伝授する広告が溢れていても、中国政府はまったく取り締まっていないことや、経済における明るいニュースが聞こえてこないことからしても、中国への影響が甚大であることは推測できる。しかし、いま知りたいのは何%の影響で、何%の人がどうなるかといったデーターだ。それはトランプが大統領を辞めて、後継者が別の関税政策を打ち出すときまで得られないと思ったほうがよさそうである。