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東谷暁による「事件」に対する解釈論

和牛の輸出を2倍にすると安倍首相がいってる;いったい誰がその和牛を生産するんだ?

安倍政権は12月10日、2018年に14.9万トンだった和牛の生産量を、35年度には30万トンに倍増する計画だという。例によって数字上の辻褄合わせで、ご都合主義的なお話なのだが、そもそも肉用牛飼育の農家が激減しているなかで、いったいどうやったらこんな法螺話が出てくるのか。

 

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(Yahooニュース画面より)


この計画がまったくの砂上楼閣であることを、他でもない農林水産省のデーターだけで見ることができる(以下のグラフはすべて農水省のデータで作成)。まず、そもそも和牛を生産する日本の畜産農家が急速に減っている。それは農家の高齢化もあり、必ずしも安倍政権だけのせいではないにしても、TPP12、TPP11、そして日米貿易協定によって畜産農家は決定的に失望した。肉用牛飼育の将来性が疑わしいからこそ、牛肉ブームになってからも、相変わらず肉用牛飼育農家の数は減り続けているのだ。

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なかには「そんなことはない、肉用牛飼育農家は数は減っているが、一戸当たりの頭数が増えて効率も上昇しているではないか」という人がいるかもしれない。では、それならばなぜ、肥育牛数の頭数も減少しているのだろうか。それは安倍政権が耳朶に心地よいことをいっても、飼育農家のことなど本気で考えていないことが、もはや明らかだからではないのか。

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事態がここまできても「補助金を出すといっているのだから、日本の肉用牛の飼育ももっと高度な技術を取り入れれば、生産性は向上して1戸あたりの頭数も飛躍的に伸びるのではないか」という人も多い。これはまったく間違いではないが、それには限界がある。日本の牧畜は「遅れている」と思いこんでいる人は多いが、少人数でさまざまな技術を駆使して、かなり効率のよい飼育をしている畜産農家は少なくないのだ。その人たちが、もう安倍政権を信用していないのである。

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そしてまた、肉用牛というと、アメリカや南米あたりの広大な牧場で、カウボーイが馬に乗って、牛たちを追い回しているようなイメージでいる日本人はけっこう多いが、そんな非効率なことをやっている、日本の畜産農家などどこにもいない。一家総出で子供たちも一緒になって精密な飼育法を、家族経営で成り立たせているという畜産農家が多く、それでもいまのような素晴らしい和牛を供給している。

 

にもかかわらず、安倍政権は単に「和牛なら輸出できるから、これを政策の売り物にしよう」と口先で言っているだけなのが見え見えである。こんな小細工ばかり繰り出すよりも、日米貿易協定あたりで自らの政治家としてのリクスをとって、苦しくとも本格的に交渉してみせ、そのうえで「和牛をもっと輸出しましょう」というのなら、肉用牛飼育農家も増える可能性がでてくる。

 

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しかし、安倍政権は歴代最長に達しても、何ひとつ本気で勝負することなく、延命だけを考えている。そもそも、日本の牛肉の自給率をみてみるがいい。こんなレベルで「日本には和牛があります。農業は打って出ないと繁栄しません」なとど、どこかの評論家の口真似をしてみせても、安倍信奉者以外の誰が本気にするというのか。

 

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TPPの現在(サイト「コモドンの空飛ぶ書斎」に連載中)