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東谷暁による「事件」に対する解釈論

アメリカを破滅させる方法を教えます!;スティーヴン・ウォルト教授の「亡国のすすめ」

トランプ大統領の世界に対する乱暴狼藉は続いているが、それに対する日本の石破茂首相の「無策」に対して批判している政治家も少なくない。しかし、そうした批判には打開のための代替案がないだけでなく、いまのトランプが行っていることへの正確な認識に欠けており、単に自分たちの野心を糊塗するだけのものにすぎない。このブログではハーバード大学のスティーヴン・ウォルト教授の論文の紹介が最近ますます多くなったが、それは彼の議論がまともであるだけでなく開放性があり、それが日本の政治および言論状況に対する批判にもなっているからだ。


今回のウォルトのエッセイは「国家を破滅させる方法」(フォーリン・ポリシー4月7日付)というもので、もちろん、これはトランプへの皮肉であり、逆説を用いた批判である。しかし、日本の自称保守派のなかにはマッチョが保守だと思い込んでいる一群がいて、しかも、どんな状況でも自分たちの小サークルで会話することが、日本を救うことだと論じていたことを思い出さずにはいられない。老婆心ながら言っておくが、以下は皮肉で逆説のレトリックを使ったものであることを、どうぞ念頭に置いて欲しい。

第一のアドバイスは「多くの追従者とゴマすりどもを身辺に置け」というもので、トランプ政権の本質はこれに尽きるといってよい。ウォルトはトランプを「マフィアのボス」とまで呼んでいる。マッチョで途方もない金持ちのイーロン・マスクですら異端となってしまうほど、その集団の閉鎖性は顕著なのだ。「国家を破滅させたいなら、まずは愚かで有害な言動が誰にもとめられないようにしなければならない。だから、無能と盲目的かつ依存的で、根性や誇りに欠けた連中を要職に任命するのがいい」。これは別に国家規模の話ではなく、あらゆる企業、あらゆる結社に当てはまる。そしてこの閉鎖性の罠(集団思考の誤謬ともいう)に、インテリならば陥らないと信じている小集団も同じことなのだ。


第二が「できるだけ多くの国家と戦え」
というもので、これもいまの関税政策に典型的に見られるように、バランス感覚に欠けているだけでなく、自分たちのパワーの源泉について、まったく無理解なのである。「トランプの所業は地政学的な配慮を無視している点でも際立っている。反撃しない国ですら、アメリカ市場への依存を減らし、アメリカ抜きでの貿易協定を模索し始めることだろう。そして、アジアの同盟国と対立することは、これからあるかもしれない中国との戦いを、アメリカにとって不可能にしていることに気がつかない」。

第三は「ナショナリズムの底力を無視しろ」というのだが、これは第二のアドバイスと関連している。「トランプは熱烈なナショナリストとして自らを描写したがるが、他の国も同じように強い国家意識をもっていることに気がついていない」。トランプが他国の指導者を馬鹿にし、領土をよこせと強要していることは、実は、馬鹿にされ領土割譲を強要された国のナショナリストたちを憤激させ、アメリカの外交をより困難で脆弱なものにしている。そんなことにすら気がつかないトランプ政権のマフィアどもは、他国が混乱するのを見て品のない顔で笑っているのだ。


第四に「規範に違反し、合意を放棄し、予測不可能を推進せよ」
。「強国の賢明な指導者たちは、規範、規則、制度が、お互いの関係を管理し、弱小国を統制するうえで役立つツールになることを知っている。トランプとその取り巻きたちは、この重要なことをまったく理解していない。彼らは国際機関や国際規範はアメリカに盾突く厄介な制約にすぎないと考えている。また、予測不可能な状態というのは強いアメリカがもっと強くなれる条件だと、まったく勘違いして思い込んでいるのである」。

第五が「アメリカのパワーの源泉を弱体化させろ」というのだが、これはウォルトが繰り返し指摘していることだ。「現代の世界では、経済力、軍事力、国民福祉の向上は、まず何よりも知識にかかっている。アメリカが何十年も世界最大の経済力を持ち、最強の軍事力を維持しているのは、科学技術の優位性であり、さらには社会科学や人文科学に対する敬意なのである」。では、トランプは何をしているのか。ロバート・ケネディ・ジュニアのような不合理な陰謀説に凝り固まった人間を、国民の健康に責任のある機関の長官に任命し、アメリカの名門大学に圧力をかけて研究活動を停滞させている。


「要するにトランプ政権は、私たちが知っている限りの知的活動を侵害し、閉鎖的ゆえ弊害の多い集団思考を歓迎し、率直な政策討論よりもトランプへの盲目的服従を優先させている。国家が脅威均衡(勢力均衡)を試みようとするまっとうな傾向を無視し、現在の同盟国を疎外したり、場合によれば敵に変えてしまうリスクを冒している。ナショナリズムの持続的なパワーを見過ごし、歴史や経済学が教えてくれる(自国中心にしかすぎない)保護主義の有害な影響を理解できない。これらの誤りはアメリカを再び偉大にするどころか、アメリカを貧しく、脆弱にし、他国から尊敬されなくなり、世界への影響力を失わせることになるだろう」


ウォルトは書いているうちに、当初、考えていたような皮肉と逆説のトーンをどこかにやってしまい、最後の部分では、かなり直裁なトランプ批判を綴っている。それはこの政治学者の性格がまっすぐで、レトリックや褒め殺しでエッセイを書き切ることに向いていないからだろう。それもまた、いつも皮肉を多用して批判対象の愚行をあてこすっているような人間にとっては、ちょっとまぶしい光景といってよい。

最後に、冒頭で触れた石破首相のトランプ対策について、ちょっとだけ付け加えておこう。ニュースを読む限りでは、アメリカの関税政策に対して態度を留保している国としては、日本と台湾が存在している。ここで性急にトランプに一矢報いたい人には申し訳ないが、これらの国の立場がアメリカに直接盾突くことは危険すぎるとの判断だと思う。すでにウォルトやグレアム・アリソンが指摘しているように、経済政策やコロナ対策で失敗して多少後退したと見られる中国が、トランプの馬鹿げた同盟国イジメによって息を吹き返している。少なくとも外交と軍事に関しては、東アジアでの存在感を相対的に高めていることは見逃せない。いかにアメリカが強大でも、同盟国が離れてしまったら、東アジアだけでなく世界のどこでも戦えなくなるのだ。

そんな状況の中で、いま軽々に対国内の人気取りのために、トランプにうわべだけ盾突いて見せるだけのマッチョポーズの言動は、あまりにも子供じみていている。自民党内部での反石破勢力が、この状況のなかで意外に静かなのは、多少はいまの危機的状況に気がついているからかもしれない。数字上のファクトのアピールを強調する人もいるが、国内向けには多少の効果があっても、対アメリカにおいては確信犯相手なのだからまるで効果がない。あるいは石破・トランプ会談の否定的な結果をとらえて、勝負にでる機会を窺っているのだろうか。いずれにせよ、自分たちの人気取りばかりに気をとられ、本当はこの恐るべき現実を真剣に考えていないだけのことだ。