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東谷暁による「事件」に対する解釈論

非公式データで見た中国経済の現実;オミクロン株の感染爆発は惨状を生み出している

中国はいま上海がロックダウンを継続していて、経済に対する影響はきわめて大きいはずだ。いくつもの非公式の指標をもちいて、その実態を浮き上がらせる試みの紹介したい。これまでも中国の経済データにたいする疑惑は多かったが、そのため、非公式あるいは非伝統的な指標から計算する方法が発達してきた。

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たとえば、GDPについては港湾の税関のデータを分析して、そこから経済成長を推測するという方法がとられていることは、以前、紹介したことがある。もちろん、データの扱いによって、楽観値を算定しがちな人と悲観的なものになる人がいる。しかし、それらを平均すると、かなり現実に近づくわけである。

今回のオミクロン株の急激な蔓延による影響は、中国国内の交通量に反映するはずである。英経済誌ジ・エコノミスト4月4日号に掲載の「サイドミラーの光景 オミクロンは中国経済に甚大な一撃を与えている」では、まず、スマートフォンから得られた、検索サイト「バイドゥ」の数値を紹介している。これによれば、中国の交通量は3月末から4月3日までの1週間は、前年との比較で48%もの下落を見せているという。

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The Gardianより:重症化する高齢者も少なくない


バイドゥのデータを使うのは経済予測の専門家も同じで、野村證券のティン・ルーの場合には地下鉄の交通量データを重視するという。彼によれば4月2日に終わる1週間で中国の8大都市での地下鉄交通量は前年比較で34%下落。さらに上海だけを見ると93%もの下落を示していて、これは2020年以来の最悪の数値だという。

また、ルーによれば4月1日までの1週間で、宅配とトラック輸送は中国全体でほぼ27%の下落を見せ、データ会社「ウインド」の数値では道路の交通量は12.8%の下落を示しているという。こうしたさまざまな数値から考えると、中国政府が発表するGDPの伸びなどは、かなり怪しいものに見えてくる。たとえば、政府の数値ではインフラ、製造業の工場、不動産への投資が、前年比較で12.2%伸びていることになっているが、これは信用できないことになる。

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The Economistより:交通量の落ち込みは経済の下落を示唆する


もちろん、テイン・ルーはこうした「非公式」あるいな「非伝統的」な数値には危険な面もあるという。気がつかない歪みが忍び込むことも多いからだ。そこでルーは少なくとも20種類のデータを用いることを推奨しているが、「少なくとも7種から8種の指標が悪化しているなら、GDPも下落していると見ることができる」という。そして、いまの中国の経済についても「状態はかなり悪くなっている」というのだ。

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The Economistより:隔離生活はかなり悲惨らしい


中国の大都市におけるオミクロン株の爆発的感染は、香港、深圳、そして上海と、中国経済を直撃しただけでなく、グローバル経済にも大きな影響を与えている。大経済都市はバラバラに感染爆発を起こしているように見える。それは巨大な国土をもつ中国の「強味」かもしれない。しかし、バラバラな感染爆発をいまは抑えていても、その状態が果たして続けられるのか。たとえば、秋に予定されている中国共産党大会まで、何とか持たせられるのか、それすらも不透明になっている。

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