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東谷暁による「事件」に対する解釈論

コロナウイルス変異種にどう対処するか;英国の南アフリカ変異種騒動から考える

もし、南アフリカ変異種がコロナワクチンで制御できないとしたら、いまですら新コロナウイルス変異種で大混乱の英国は、どうなってしまうのか。2月6日にアストラゼネカ社のワクチンの効果が、南アフリカ変異種に対しては限定的だと報じられたとき、多くの英国民が思ったことだろう。

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すでに「南アフリカ異変種にはアストラゼネカは効かない?」で紹介したように、オクスフォード大学アストラゼネカ社が共同で開発したワクチンは、新型コロナウイルス南アフリカ変異種に対しては、重症に陥ったり死亡するのは防止できるようだが、軽度および中度の症状を抑えられないというので、ショックが世界中を走った。

 最初に報道したのはフィナンシャルタイムズ紙2月6日付だったが、同国のザ・タイムズ2月7日付も「オックスフォードのコロナワクチンは南アフリカ変異種に対しては効果がかなり低い」とのショッキングな記事を掲載している。しかし、しだいに状況が明らかになってきた2月8日付では、こんどは「オックスフォードのコロナワクチンは重症に対しては『重要な』防御を提供するだろう」と、今度はやや楽観的な方向にシフトしている。

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激しいコロナ感染の増加に見舞われた英国(The Timesより)


ザ・タイムズは2月9日になるともう少し踏み込んで「コロナウイルス南アフリカ変異種が優勢になることはないと、保健省副主任のジョナサン・ヴァンタムが言っている」を掲載して、これからの状況変化と変異種対策をいくつか予想している。日本でも変異種が感染拡大したときにどうなるのか、予測するのに役にたつと思われる。

まず、南アフリカ変異種が、英国変異種や従来種を押しのけて、感染拡大するかどうかについて。「ヴァンタムは昨夜、次のように述べている。『最初のころのデータによれば、南アフリカ変異種が、これまでのウイルスより際立って伝染性が高いというわけではなかった。南アフリカ変異種がこれから数カ月以内に、いまのコロナウイルスに追いつき、さらに追い越してしまうと考えないのは、そうした理由からです』」。

「ヴァンタムは、国民が新しい変異種を怖がって、ワクチン接種を拒否するようなことはさせたくないと述べている。国民はむしろ『目の前の脅威』から、自分を守るように行動すべきだというわけである」。英国の保健当局としては、南アフリカ変異種に怯えて、いま進行中のワクチン接種を拒否する人が増えるのは、なんとしても阻止したいのだろう。

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世界でも最悪の死亡率を記録した(The Timesより)


ジョンソン首相も、アストラゼネカ製のワクチンがともかく重症化や死亡を阻止してくれ、他のワクチンもあることを考慮に入れれば、慌てる必要はないと考えているようだ。「わが政府は、提供して使っているワクチンすべてを信頼しています。それらすべてが、重症化や死亡に対して高い効果で防御できると考えているのです。これは大事なことです」。

 南アフリカのウィットウォーターズランド大学のシャビル・マディ教授は、ジョンソン&ジョンソン社のコロナワクチンが、89%の有効性で重症化を阻止することが分かっていると指摘して、次のように述べている。

 「ジョンソン&ジョンソン社のワクチンとアストラゼネカ社のワクチンは、同じ技術で作られたものです(ベクター型ワクチンだという意味だろう:東谷)。したがって、アストラゼネカ社のワクチンも、ジョンソン&ジョンソン社のワクチンと同じように、重症化するリスクに直面しているさまざまな年齢層の人たちに、高い効果があると期待できます」。

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すでに、「南アフリカ異変種にはアストラゼネカは効かない?」で触れたように、アストラゼネカ社とオクスフォード大学の研究グループは、今年の秋を目指して南アフリカ変異種をターゲットにしたワクチンを開発する予定であるという。そしてまた、他の製薬会社や研究機関も、新型コロナの変異種に対しては、さまざまな方法で対応していく予定であるという。

もちろん、こうした試みは簡単なものではないが、すでに基本的なワクチン製造技術はいちおう確立しているといってよい。ゼロから始めるわけではないので、それほどの困難が待ち受けているわけではない。むしろ、変異種が登場するたびに掻き立てられる恐怖によって、人びとにコロナ接種を忌避する心理を拡大させないことのほうが、課題となるかもしれない。ワクチン忌避の傾向が強い日本の場合には、こちらのほうが大きな問題となる危険性があると思われる。