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東谷暁による「事件」に対する解釈論

習近平と張将軍との暗闘がもたらしたもの;デニス・ワイルダーによる分析を読んでみよう

最近、中国の習近平による粛正が大きな話題となった。中国軍のトップである習近平とナンバー2の張又俠将軍が水面下で戦って、結局、習近平が勝利したと言われている。習近平が反乱を企てていた張又俠を粛正したという見方をする人も多いが、なぜそうしたかについては不明なことが多く、さまざまな説が語られているが、ジョージタウン大学のデニス・ワイルダー教授の説を紹介しておきたい。ワイルダーはもともとCIAで働いていたが、国家安全保障会議などをへて、ブッシュ(息子)大統領の特別補佐官も務めている。


ワイルダーが英経済紙フィナンシャルタイムズに「習近平の軍事粛正の意味」を寄稿してから、すでに1週間が過ぎようとしているが、読み直してみて、いまも紹介する価値があると思えるので、要点のみを書いておきたい。まず、ワイルダーの論考の最後を引用しておこう。「2013年以来、習近平は鉄の権力で中国を統治してきた。しかし、張将軍を排除してしまったのは、やりすぎだったかもしれない。ひとつだけ確かなことは、張将軍の真の罪は汚職でも無能な指導性でもなく、習近平主席に本人自身が耐えられないほどの権力を握らせてしまったことである」。

デニス・ワイルダーはCIA勤務の経歴をもっている


おおざっぱにいって、最初に世界の注目を集めたのは、張又俠将軍がまず昨年の夏に有力な二人の将軍、何衛東と苗華を、中央軍事委員会から追放したことだった。この2人は習近平主席が自ら軍司令部のトップに据えた人物たちだったので、世界の軍事専門家たちの間に緊張が走った。日本でも中国出身の評論家がこの事件を取り上げて、習近平の独裁が揺らいでいると指摘していた。

かつては盟友といってより関係だった


この2人は習近平がかつて党における台湾の担当者だったときに、台湾戦線の軍事司令官を務めていた人物たちだったので、台湾有事と強い関係があるのではないかと言われた。ワイルダーによると、この2人は台湾への対応について、かなり積極的なアプローチを主張していたのではないとの憶測が盛んだったという。いっぽう、張将軍は「ベトナム国境での戦闘を経験した老兵であり、人民解放軍がそれまでのアプローチを変えられるとは考えていなかった」。もちろん、こうした張将軍の動きは習近平を激しく刺激した。

習近平は、自分が張将軍の次のターゲットになるかもしれないと危惧した。あるいは、習近平が考えていた第4期目の5年間の指導体制を、張将軍が阻止しようとしているらしいと懸念した可能性もあるという。政治局員であり、かつ制服組のトップであった張将軍は、今後1年間、他の政治局員や引退した党の重鎮たちと協力を深め、その実現を目指していた可能性も考えられる」

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ワイルダーによれば、中国共産党人民解放軍との間には、いまの中国を成立させる以前から緊張関係が続いてきたという。したがって、この2つは常に微妙な関係にあったが、いずれかが圧倒的立場を持たないことで、中国は維持されてきた。「張将軍が習近平に反攻したという証拠はどこにもない。また、2人の間に意見の相違があったという兆候も見られない。実際、習近平は張将軍を中央軍事委員会に引き上げただけでなく、まさに人民解放軍の運営を彼に託してきたのだ」。ということは、真相はますます分からなくなるのだが、こういう場合には、まず現実を直視することからやり直してみるべきだろう。

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ワイルダーは、真相がどうであれ、張将軍の失脚は党エリート層の間で、習近平の判断力と指導力に対する懸念を喚起するリスクがあるという。たとえば、彼らは習近平の後継者の指名を迫ったり(習近平はこれを拒否してきた)、若い指導者が前面に出ることのできる権力分担の枠組みを模索したりする可能性があると指摘している。もういちど、ワイルダーの論文の最後の部分を引用しておこう。

「2013年以来、習近平は鉄の権力で中国を統治してきた。しかし、張将軍を排除してしまったのは、やりすぎだったかもしれない。ひとつだけ確かなことは、張将軍の真の罪は汚職でも無能な指導性でもなく、習近平主席に本人自身が耐えられないほどの巨大な権力を握らせてしまったことである」