HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

アメリカは自滅の時代に突入した!;スティーヴン・ウォルト教授が語る「絶望」と「光明」

トランプの暴走はとどまるところを知らない。良識的なアメリカ支持者はいうだろう。あの国には自浄作用があるから、かならず暴走を止めようとする力が働くと。しかし、これまでのところ、そうした自浄作用や拮抗力が働いている兆しはまるでない。それどころか、ますます暴走はひどくなり、国際政治への対応もでたらめで、国内に対しては乱暴な独裁の色彩が強くなっている。常に将来へ積極的な姿勢を見せるハーバード大学のスティーヴン・ウォルト教授ですら、絶望の言葉を吐くようになってきた。

トランプ政権はかつてないアメリカ自滅を生み出す


ウォルトは外交誌フォーリン・ポリシー2月12日号に「アメリカの敵はアメリカ自身だ」を寄稿して、いまの自身の「絶望」を語っている。いうまでもなく、こうした事態はウォルトにおいては珍しい。厳しい現実の指摘のいっぽうで、それを抜け出す道を示唆するのが常だったからだ。いつもはウォルトの論文を紹介するさい、全体の構成をなるだけ残すように努めてきたが、今回はむしろ彼の絶望の中心を紹介したい。

ウォルトの絶望とは、アメリカが自滅しつつあるということだ。「アメリカの敵はアメリカ自身だ」というわけである。「最近、私は指導者が自発的に愚かな行動方針を選択し、手遅れになるまでそれを変えない場合、あるいは変えようとしないとき、国家が自らに与える甚大な被害をあたえると考えるようになった」。数週間前には「トランプはピークを迎えた」と論じ、これからは後退するだけだと指摘していたが、いまはそれを訂正するしかないというのである。なぜか? 繁栄する国が崩壊するのは外敵によるのではなく、その国自身の愚かさによるものだからだ。

ウクライナは単なる「資源」なのか


「お前の最大の敵はお前だ」と述べたのはニーチェだった。そしてこの鋭い洞察はニーチェ自身に跳ね返ってくることになった。いまアメリカは指導者が暴走して、その暴走を止めるすべがない。ウォルトが指摘してきたように、大統領、上院、下院、法曹界のすべて「背骨が溶けた」共和党が支配するものとなった。たとえ、そうではあっても、それらのなかから支配への抵抗が生まれて来れば、アメリカは再生への道を踏み出すだろう。しかし、いまやそれらの勢力を完全に独裁者が仕切るようになれば、アメリカといえども破滅の道から脱出できないかもしれないというのが、ウォルトの今の考察なのである。

ウォルトが挙げている「最大の敵」に打ち負かされた国家の例には、第二次世界大戦でのドイツや日本、戦後の毛沢東に支配された中国、スターリンソ連、経済的には好調だったはずのアルゼンチンやベネズエラなどが挙げられている。さらには、アメリカ史を振り返った場合、南北戦争という自国内の対立から生まれた悲劇が、これまでの最大の災厄だったことも強調されている。「これは驚くべきことではない。アメリカは裕福でパワーに満ち、地理的にも有利な位置にあるため、外国勢力がアメリカに自国自身が与えると同じくらいの損害を与えることはむしろ難しいのだ」。

イーロン・マスクがトランプに反逆するときが転機


では、どのような状況になれば、アメリカの指導者が自国に打撃を与える可能性が高くなるのだろうか。ウォルトはジェームズ・スコットの『国家の視点から:人間の状態を改善する計画はいかにして失敗したか』から引用しながら述べている。スコットは2つの原因をあげている。第一が「抑制されない権力」であり、第二が「合理的あるいは準科学的世界観」であるとスコットは述べている。

第一の原因は、トランプの言動といまの体制をみればほぼ達成されつつある。第二の原因はマルクス主義や科学主義に基づく政治のことだが、これについてウォルトは、いまのアメリカの場合はもう少し複雑で、白人キリスト教ナショナリズムとテクノリバタリアニズムが合わさったものと見ている。ウォルトは「白人キリスト教ナショナリズムとハイテク仲間の都合のいい結婚」と呼んでいて、合理主義的あるいは準科学主義ではないことを強調しているが、私にはかなり近いものに見える。要するにハイテクやサイエンスと宗教的メンタリティの混淆あるいは習合であって、いまの「都合のいい結婚」も同じ機能をもっているのではないだろうか。

自分は法律を超える存在だと思い込んだトランプ


こうしたいまの2つの「結婚」に対して、それを崩壊させるのは何かといえば、ウォルトが挙げているのは「現実世界の出来事と、組織的かつ非暴力的な市民の抵抗」である。ここでウォルトが示唆しているのは、白人キリスト教ナショナリズムとテクノリバタリアニズムの結びつきが崩壊するのは、おそらくトランプが行き詰ったさいに起こる、政権からのイーロン・マスクの追放あるいは排除が切っ掛けになるということで、すでに私もこれは株式の崩壊について指摘したことがある。問題はそれが早く起こるか遅れるかだろう。最後の部分を引用しよう。

「そうなると、私はまたしても、アメリカの民主主義、アメリカの経済、そしてアメリカの過去の成功の源泉となった知識創造機関(つまり、大学とか研究機関)へのダメージが修復不可能になる前に、事態が早く悪化することを願わざるを得ないという、きわめて厄介な立場に立たされることになるのである」