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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ドイツのこれからを見通す3つの図版;「アメリカからの独立」はどこまで可能か?

ドイツの下院選挙でキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が勝利したが、極右といわれるドイツのための選択(AfD)が大躍進し、これまで政権党だったドイツ社会民主党SPD)は第3位に転落した。CDUのフリードリヒ・メルツが首相になると思われるが、この場合はSPDとの大連立が予想されている。しかし、大連立とはいいながら、かろうじて過半数を確保するていどのものだ。そして、いまドイツをとりまく状況は内外とものきわめて難しい。これからのドイツを3つの図表から考えてみよう。


ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙2月24日付は、実に分かりやすい図版と地図を掲載してくれている。選挙結果、議会での勢力分布、そして地域ごとの勝利した政党でみる勢力地図である。議会での勢力分布でみれば、CDU/CSUがいまのところ「極右」のAfDと組むことはないので、可能性としてこれまで政権党だったSPDとの大連立ということになる。しかし、これで政権が盤石かといえば、そうでもないのだ。


第2位となったAfDが前回と比べてほぼ2倍にもなる大勝利であるため、大連立を行ってもようやく過半数を超える程度だから、これでは安定政権とすらいえない。しかも、アメリカのトランプ政権が支持しているのが極右のAfDであって、さかんにイーロン・マスクが応援に来ていたことは周知のとおりである。そして、いちばん右の地図を見ていただくと分かるように、AfDの大勝利の背景には旧東ドイツの大きな不満が存在している。そしてそれはロシアへの親近性が強い地域とも重なることを忘れるわけにはいかない。

「極右」を支持している人が多いのは親露が多い地域でもある。

AfDはしだいに勢力を伸ばしたが、今回の選挙では躍進した。

この政党についてはトランプとイーロン・マスクが支持してきた


そのなかで首相になると思われるメルツは、「独立を達成する」と宣言している。これはどういう意味だろうか。この宣言をタイトルにした記事を載せている、英経済紙フィナンシャル・タイムズを見てみよう。「ドイツのフリードリヒ・メルツは、自派の中道右派連合が連邦選挙で勝利したことを受けて、アメリカからの『独立を達成する』と約束し、ヨーロッパが複雑化していくであろう時期のトップの覚悟をみせた」。メルツの発言を引用してみよう。

「私はEUの多くの首相や首脳と緊密に連絡を取り合っている。そして、可能な限り早くかつ着実にヨーロッパを強化し、実質的にアメリカからの独立を達成することが、いまの絶対的な優先事項でなければならないだろう。こんなことを言うことになるだろうとは、思ってもみなかったのだが、しかし、ドナルド・トランプの登場以降、アメリカ人たち、少なくとも現在のアメリカ政府は、ヨーロッパの運命にほとんど無関心であることが明らかになってしまっている」

フランクフルター紙より


もちろん、トランプはヨーロッパに対して何も考えていないわけではない。ただ、これからのウクライナ問題の解決を含めて、ヨーロッパの意向を配慮しようとしていないことは、もはや明らかなのだ。しかも、トランプ政権は今回の選挙にかんして、イーロン・マスクの不躾な発言や振る舞いに典型的に現れたように、あきらかに干渉といえるような姿勢で臨んでいたわけである。

「トランプ政権はAfDを公然と支持しており、ナチス時代のスローガンを掲げつつロシアへの制裁終了を促し、移民の大量送還を呼びかける同党との協力を拒否したとして、いまのドイツの主流派政治家たちを批判している。トランプ大統領はここ数週間、ウクライナ戦争の終結をめぐってロシアと直接交渉し、ヨーロッパ諸国に不意打ちをくらわせ、ヨーロッパ大陸からアメリカの安全保障を撤回すると脅している。そして、ドイツにはヨーロッパに駐留する米軍部隊の中で最大の規模を誇っていることを忘れるわけにはいかない」

フランクフルター紙より


メルツは「われわれの前にたちはだかる課題の大きさは分かっている」と述べている。「私は最大限の誠意をもってこれらと取り組んでいく。そして、それが容易ではないことも理解しているつもりだ」。しかし、本人も分かっているように、これは一国の首相が対応できるような事態ではない。トランプは「ディール」という言葉を好み、また、世界中の報道機関がしばしば「ディール」という言葉で解説してしまうが、実態はただの「威嚇」であり「恐怖による強制」なのだ。

もちろん、いま直面する事態に対応しなければならないが、アメリカのトランプ支配という事態については、これが永遠に続くものではないと、どこかに留保をもちながら、激しい嵐と地震がもたらすものと、それらへの対応を考えるという工夫がいる。転機への時期の到来が、いまも高揚状態にあるアメリカ国民が、冷め始める時間の長さによって決められてしまうというのが、なんとも鬱陶しい限りである。しかし、トランプに対する叛旗は、ゆっくりで少しずつだが見られるようになっていることは間違いない。