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東谷暁による「事件」に対する解釈論

米国の失業率が下がったらしい;それなのに国内の分断は拡大している

6月5日に発表されたアメリカの労働統計は、前回の失業率14.7%から改善したのでトランプ大統領はご満悦で「これはⅤ字回復なんかではない、ロケット発進というべきだ」とうそぶいた。発表前の予想では19%くらいまで行くといわれていたのだから、トランプの気持ちもわからないではない。

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 しかし、その数値は13.3%なのだから、そんなにはしゃいでいいのだろうか。もう、トランプは興奮状態で、こともあろうに警官の暴行によって死亡した黒人の名前をあげ、「今日はジョージにとってもいい日だ」などと、暴走してしまった。どうやら、この大統領は自制心というものが、最終的に消滅したようだ。

 この13.3%という数字は、もちろん、アメリカの経済が回復に向かっていることを示すものではなく、たんなるデーター処理上の問題である疑いは強い。意図的でなくとも、どこまで統計に含めるべきか、いつの期間を対象にすべきかといった、テクニック上の相違がもたらした椿事ではないのか。

 特に労働統計について、技術的な素養があるわけではないので、ここにいくつかのメディアが発表したグラフを提示して簡単にコメントしておく。お読みになったかたは、今のアメリカがいかなる状態にあるのかを、想像していただきたい。トランプは上半身は外に出ているが、下半身はもう泥沼に浸かっているといってよい。

 まず、13.3%がどのようなシチュエーションで出てきたものかは、2つほど見ていただこう。英経済誌『ジ・エコノミスト』電子版は、これまでの経緯を述べて、こんどの数字が異常なものであることを示している。トランプがいま進めているような、財政出動の金額を拡大しただけの、あとは口先のみの政策で、果たして危機からの脱出ができるか疑わしい。

 

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 また、日本経済新聞の本日付は、棒グラフにして「理由不明の休職」を加えることによって、この数値が仮のものであることを示唆している。労働統計局の集計における不統一を示唆し、本当はもっと多くなんだろうけど、まあ、米労働統計局の数値を提示しておこうということだろう。

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 そのいっぽう、株価だけは急伸している。この理由はいうまでもなく、トランプが煽りに煽って、財政出動と債券買取を進めていることによって、この国に馬鹿げた幻想が生まれているからである。もちろん、この幻想はいつかは消滅する。それが第2波のときか、それとも大統領選以後なのかは不明だが。

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以前にも指摘したが、伸びている株価はFAMAAと括られる情報系の巨大企業であり、米国および世界の投資は、ほかの分野から情報系に殺到している。ということは、コロナ状況になっても儲けられる企業だけに資金が集まり、いま、危機にある分野から資金が逃げ出しているということになる。

 

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 こうした状況に便乗して、アメリカの富裕層は損をするどころか5650億ドル(約60兆円)あまり、資産を拡大したというニュースはご覧になったと思う。ここでは端折るが、アメリカでは資金が必要なところから逆に剥ぎ取り、我が世の春を謳歌している金持ちに、さらに金を回している状況なのである。

 

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 最後に失業率に戻るが、いまの非自発的休業の分野別動向を『ジ・エコノミスト』が掲載している(上)。実に適切な情報提供であって、これは見ればすぐにアメリカの現在が分かり納得するだろう。サービス業の失業がさらに拡大し、金融業は手堅く生き延びている。この構図は日本の失業と共通していると思う。余計な説明は加えないので、みなさんアメリカ経済の状況を解釈していただきたい。