これほど世界に混乱をもたらし、アメリカ経済に打撃を与えているのに、なぜアメリカ国民はいまもトランプを引きずり降ろさないのだろうか。アメリカ大統領の権限が大きいから? そうではない、いまのトランプへの支持が、圧倒的な共和党支持者によってしっかり維持されているからだ。「お前たち、いいかげん分かれよ!」と言いたいところだが、まずは客観的なデータで、いまのトランプへの支持の構造を確認しておこう。

例によって英経済誌ジ・エコノミスト3月3日付が「トランプに教育されて、アメリカ人は彼らの同盟国を憎むことを覚えた」という、データがタップリと入った皮肉まじりのタイトルの記事を載せた。短いものだがデータとグラフは十分に内容がある。簡単にいってしまえば、選挙でトランプが勝ってから、アメリカ人とくに共和党支持者はますますトランプ化してしまったということである。

図1;トランプ支持者は彼の扇動のとおりに動く
「選挙前のYouGovの世論調査では、共和党支持者のうちカナダを『非友好的』または『敵』と考える人はわずか12%だった。3月22日から25日にかけて行われた最新の調査によると、その割合は2倍超の27%に増加した。(こうした否定的感情は選挙前にも増加の兆しを見せてはいた)同様に、昨年は共和党支持者の17%がEUを『非友好的』または『敵』と見なしていたが、いまでは29%に増加している(図1)」

図2;ロシアへの反感が下がり、ウクライナへの憎悪が上昇
いっぽう、ロシアに対する認識は反対方向に動いている。2022年にロシアがウクライナに全面侵攻した後に、アメリカ人は一致団結して非難した。有権者の約85%がロシアはアメリカにとって「非友好的」または「敵」であると考えていた。この割合は2024年の大統領選挙までは安定していた。ところが、トランプが大統領に当選してからというもの、変化がみられて、いまや共和党支持者でロシアを「非友好的」または「敵」と考える人の割合は72%まで低下した。しかも、同じ期間にウクライナが「非友好的」「敵」と考える共和党支持者は10%増えているのである。

図3:グリーンランドがヤバいデンマーク以外、西欧右派はトランプが好き
同誌が特に注意を喚起しているのが、民主党支持者ですらロシアに対する態度を徐々に軟化させて、アメリカにとって長年の同盟国である疑念を深めていること。そして、またそれに対応するかのように、アメリカ人以外の国のアメリカに対する認識も変化していることである。2024年8月にYouGovがヨーロッパ7カ国で行った世論調査では(図3)、半数がアメリカに好意的な見方をしていた。ところが、トランプが大統領に就任して以来、好感度は下落しており、デンマークなどは48%から20%にまで激減した。これはグリーンランドにアメリカが食指を伸ばしたことと無縁ではありえない。

「お前は、カードを持っていないだろう!」
この問題と関連しているが、ヨーロッパの強硬右派支持者(ハード・ライトは日本では極右と訳されるが、ちょっとバイアスのかけすぎだと思う)の動向は実に興味深い。英国、ドイツ、イタリア、スペインでは強硬右派支持者はトランプのアメリカに対する好感度を高めている。(さすがにデンマークの場合には右派であっても好感度は下がっている。)ただし、ウクライナ問題についてはヨーロッパの強硬右派支持者のなかでも、トランプの対ウクライナへの侮蔑的言動に対する評価は分かれているが、移民問題やその他の国内問題についてはトランプの主張に賛同しているようだ。

こうしたデータとグラフを見て思うのは、いまや世界的に世論がますます極端に不安定になっているということである。それはトランプ政権というきわめて不安定な政権がアメリカにできてしまったことにもよるが、それと並んでSNSの持つ影響力が異様に大きくなったことがあると思われる。それは日本においても顕著であって、何かをきっかけに大きく世論が急速に容易に変わってしまう現象は、世界的規模で続くことになるだろう。