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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国はどこまでアメリカを追い込んだのか?;習近平とトランプの首脳会談が炙りだした構図

今回のトランプ大統領習近平主席の首脳会談には、これまでに見られなかったような特色があった。それはトランプの攻撃に対して周がゆうゆうと防衛しているような構図になっていたことだ。英経済誌ジ・エコノミストは会談が始まる前から「中国がアメリカを打ち負かしている」と報じていた。すでにそれは準備をしている周辺の発言から、明らかになっていたことだったのだろう。では、中国はどのような「勝利」をしたのか?


英経済紙フィナンシャルタイムズ10月31日付は「周・トランプ首脳会談で中国が同等のライバルとして浮上した」との記事を掲載した。習近平は「中国の発展はアメリカを再び偉大にするという、あなたのビジョンと手を携えて、進むべきだと私は信じている」とトランプに語ったが、それは中国も同じように、中国に過去の栄光を回復するというビジョンをもっている、周の気持ちを吐露したものといえた。

10月30日の米中首脳会談では、最近発表された輸出規制とあらたな海上関税を1年間停止することで合意した。さらに、アメリカはフェンタニル関連の中国製品に対する関税率を10%引き下げ、平均関税を45%に引き下げることで妥協を示し、中国は大豆の購入を再開することで合意している。ともかく、両者ともかなりの妥協をしたわけで、これがもっと拡大していけば、米中の軍事緊張も消滅するとの幻想が生まれそうな展開だった。


この合意について、テネオのアナリスト、ガブリエルウィルダウは、「テクノナショナリズムは依然として最優先事項だと思う」と述べつつも、「この会談の否定できない成果を考えると、中国にとって、アメリカの輸出規制に対する耐性や、希土類元素、電池、その他の産業における中国の優位性から生じる、地政学的影響力などが関係していると思われる」とコメントしている。

また、JPモルガン・アセット・マネジメントのチャオピン・チューは「両国はこうした措置によって交渉材料を残しておくことで、将来における両国の交渉への可能性を維持しておこうとしているように見える」とコメントしている。しかし、「より広範な貿易と技術の競争は依然として続いている。首脳会談によって短期的な期待は安定したが、まだまだ大きな摩擦は残っている」。


こうした状況を戦略論的に論じているのが、上海にある復旦大学国際問題研究所の趙明浩教授で、「基本的なメッセージは、習近平は自国の『中国を再び偉大にする』という政策と、トランプの『アメリカを再び偉大にする』という政策の収束を模索したということだろう」と語っている。ただし、「今回の首脳会談は米中関係の戦略的なリセットではなく、戦術的なデタント(緊張緩和)しかもたらさないだろう」ともコメントしている。趙教授は次のようにも指摘している。

「経済と貿易に関する詳細な取り決めを確定していくには、両国のさらなる努力がもっと必要だろう。そして、両国の経済・政策チームには、まだやるべきことが山ほどあることは間違いのないことだ」

 

こうした米中関係の変化については、両国の力関係の大きな変動がまちがいなく存在していると同紙は指摘している。「トランプの最初の貿易攻勢が中国を驚かせた約10年前とは異なり、今回の中国側は準備を整えていたことはあきらかで、経済的にもより強力になった国家(中国)が、かつては遥かに強大だった国家(アメリカ)との交渉を、膠着状態に追い込むことに成功したということなのである」。

トランプが世界規模の報道において、画面いっぱいに偉大な指導者を演じられるのは、相手が大きな弱みをもっている指導者のときだけで、プーチン程度でも彼のディールはたんなる田舎芝居にしか見えなくなる。まあ、もっともスナックのチーママのような首相が、ちゃらちゃらとトランプの回りではしゃいでいるのに、マスコミが「友好的関係を築いている」と報道しているどこかの国を思い出せば、これがリアルな国際政治というものだと、改めて思い出させてくれる米中首脳会談ではあった。