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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ロシア経済は停戦後に危機に陥る?;ウクライナ戦争後の経済政策はかえって難しい

ロシアはアメリカとの交渉で、場合によれば、ウクライナ戦争をやめるかもしれない。そうすれば、世界的な経済制裁も終わり、戦場からは労働力が帰って来る。ロシア経済も回復するということになりそうだが、どうもそうではなさそうなのだ。そもそも、ロシア経済は周りが思い込んでいるほどひどい状況にはない。それはこのブログでも何回かレポートした。もし懸念があるとすれば、それは意外なことに、むしろ停戦後に生じるのだ。


経済誌ジ・エコノミスト2月13日付の「ロシアのインフレ率は高すぎる。それは問題なのか?」は、これまでと同様にデータに基づいてロシア経済の現状を分析しているのだが、タイトルが示唆しているように、高いインフレ率ではあるが、それほどの窮状ではない。それどころか国民の不満は高まっていないし、消費意欲もけっこう順調なのである。それは、経済制裁には多くの「穴」があること、また、金融当局と財政当局が対立はあるものの、なんとか経済の悪化を回避していること、そして、付け加えれば最大の要素は、クルクスのほんの一部以外、領土のほとんどが戦場になっていないことだろう。


まずは、同誌のレポートから見てみよう。世界の国ぐににおいては、インフレはいま沈静化されているが、ロシアはかなりのインフレ率を示している。消費者物価は昨年12月に前年比9.5%を上回り、果物と野菜の価格はこの1年で平均20%もの上昇を見ている。インフレの理由は外的要因と内的要因の2つ。外的要因としては、通貨ルーブルの価値が下落して、輸入品が高くなっていることである。また、内的要因としては戦争に兵士を多く送り出しているので労働コストが高くなり、それが物価に跳ね返っているわけだ。


では、そのことでロシア経済は苦しい状況にあるのかというと、それほどでもない。第一に、たいがいの新興市場では通貨が下落すると対外債務が急増して窮地に陥るが、ロシアの場合には経常収支の黒字が大きく、対外純資産も健全なので、こうした事態にはならない。第二に、インフレが上昇すると金利も上昇して、政府の債務返済コストが高くなるが、ロシアの場合には、金利が上昇してはいても、政府の債務が少ないので、債務返済に苦しんでいない。第三に、インフレが続くと国民の不満が昂進して、政治的に危機になることがあるが、これもロシアの場合、世帯収入が1年で10%上昇し、実質世帯消費の6%上昇しているので、不満はほとんどないようだ。では、ロシアは天国のようなところなのか。まさか!


「この状態が持続するかはまったく別の問題だ。ロシアはいずれ限界に達して、国民は物価上昇にも文句をいうようになるかもしれない。ドナルド・トランプが2月12日に示唆したウクライナ和平交渉の見通しからすると、ロシアにとっての新たな経済的課題は、これから生じることになる。いまロシアは武器だけでなく、平時には必要のない多くの財やサービスを生産している。ということは、戦争の終結後に適応するのは驚くほど困難なプロセスになる可能性がある。西側諸国が経済制裁を解除しないかぎり、インフレがどうなろうと、ロシアの長期的な見通しは甘くない」

ジ・エコノミストより


冷静で冷酷なエコノミスト誌にしては、ちょいとばかり結論を急ぎすぎている。かみ砕いてみよう。もしウクライナ戦争が停戦になれば、これまで戦時ゆえに生産してきたものが不要になって、当然、GDPが低下していく。そしてそのためもあって、ウクライナに派遣していた兵士たちが帰還すれば、働き口が見つからないことだろう。しかも、このとき経済全体の規模GDPは減少している。この状況を乗り切るには、新たに財やサービスの生産を拡大し、雇用を創り出し、そして、それにともなう過度のインフレも抑えなくてはならない。それは、いまのような経済制裁下では、簡単にはいかないだろうというわけである。

しかし、単純に考えると、いまの経済制裁は(以前からの部分もあるが)ウクライナ戦争によるものが大きいので、停戦が成立すればそれらが解除されるだろう。そうすると、外国からの財やサービスも入ってきて、同時に、ロシア国内に対する海外からの投資も再開される。これがうまくいけば、戦時の財とサービスをカバーするGDP増加も可能になり、雇用も生まれるだろう。制裁が解除されればルーブルの価値も安定するので、インフレ対策はいまよりずっと楽になる。と、考えていけば、この世界は明るいのだが、ジ・エコノミスト誌はそうは見ていないということなのである。